ペルセウス座流星群に願いを
ゆりえる
願い事が叶えられたのは……
「何だよ~。今年は、ついにお前と二人だけか」
「いつの間にか、メンバー達に彼女が出来て、僕らだけになってしまったな~。まあ二人いるだけマシか」
暢気に構えている、
「二人ったって、女と一緒ならともかく、野郎と二人なんて、
「そんなに焦らんでも。そのうち、僕らにだって良い巡り合わせが有るさ」
楽観的な辰彦に比べ、兵太はせっかちだった。
見晴らしの良い小高い丘へ向かおうとしていると、前方にうずくまる人影。
「どうしたんだろう?」
「ほっとけよ! 早く行かね~と流れ星を見逃しちまう!」
「そんな事ないって! まだまだ夜は長いから、困っている人を助ける間くらい、流れ星も待ってくれるって」
辰彦は自身の腰位置より低くなっている人影に近付いた。
「あの、大丈夫ですか?」
声が届くくらいの距離になると、人影が老婆だという事に気付き、兵太はハズレくじを引いたような感覚で、チッと舌を鳴らした。
「あいたたたた……どうやら、足を
「お安い御用ですよ」
辰彦は明るく応じながら、老婆の手を取り立たせたが、挫いた右足がカクンとなって上手く立てない。
「情けないね。せっかく今日は、ペルセウス座流星群の極大日っていうから、そこの丘まで、観に行こうとしていたのに」
「おばあさんも、ペルセウス座流星群を観ようとしていたんですか! 偶然ですね! 良かったら、一緒に行きましょう!」
「ええ~っ!」
辰彦の誘いに老婆も驚いたが、声を上げたのは、兵太だった。
「いやいや、無理だって。この足じゃあ。二人で行っておいで」
「心配いりませんって。おんぶしますから」
そう言いながら、がたいの良い辰彦が、軽々と老婆を背負った。
「悪いね~、こんな重荷なんか背負わせて」
「そこまでしなくても……」
独り言のように小声で言った兵太。
……………
小高い丘に登ると、ペルセウス座流星群を見る為の条件は整った。
月明かりに邪魔されず、雲も
老婆は用意していた敷物に腰を下ろし、辰彦と兵太はそのまま草原に横になった。
暑かった日中とは違い、風が少し涼しく感じられた。
「どれどれ、放射点は、どの辺りだろうね?」
「ペルセウス座流星群の放射点はペルセウス座のγ(ガンマ)星の辺りです。明け方近くなると、放射点が高くなるから見やすいですけど、この時間だと、流れ星はまだ少ないですね」
辰彦がγ星を指差しながら、老婆に説明した。
「その少ない流れ星を見られた方が、御利益が大きそうだから、俺は今から見付ける気満々だけどね!」
寝転がっている兵太も、放射点辺りに顔を向けた。
その時、明るく長く痕を引き、ジュッという音まで伴う火球が出現した。
「あっ、流れ星!」
三人とも揃って目撃し、その長い出現の間にしっかりと願い事をした。
「まさか、最初に見た流れ星が火球クラスとは! おかげさまで、良い事がありそうだね!」
「これで、今年のクリスマスまでに彼女ゲットだぜ!」
「兵太も、それを願ったのか! おばあさんも、願いましたか?」
「私は、孫に良い相手に恵まれるようにね」
老婆の孫という言葉で、男女どちらか分からないが、老婆の容姿と願い事の内容から、今まであまり御縁が無さそうな外見だったのだろうと憶測した兵太。
「そうですか、皆の願いが叶うといいですね! 夜も更けましたし、火球も観られたから、目的達成という事で、そろそろお開きにしますか? 送っていきますよ」
「そうかい? 悪いね、何から何までお世話になりっぱなしで」
「悪いが、俺は、明日朝早い仕事だから、先に帰る」
辰彦の親切心には付き合い切れない様子で、兵太が言った。
…………………
クリスマスを10日後に控えた、ふたご座流星群の極大日。
まだ交際相手のいない兵太は、いつものように辰彦を誘って、流れ星の願掛けに行こうと思い、電話した。
「ペルセウス座流星群の時からずっとバタバタしてて、伝えるの遅くなったけど、僕はもう卒業するよ」
「何だって? まさかと思うけど、女が出来たとか……?」
そう尋ねつつも、辰彦に限って、相手が出来たなんてはずはなく、転勤か家庭の事情と決め付けていた兵太。
「実は、そうなんだ。話がトントン拍子に進んで、来年、結婚する事になった」
「結婚だって!? 相手は……?」
「ほら、ペルセウス座流星群を一緒に見たおばあちゃんのお孫さんだよ。今度、紹介するよ。すごくキレイで優しくて素敵な人なんだ!」
………………
その深夜、ふたご座流星群を見る為に重装備し、うずくまる人影を一人探し回っていた兵太の姿が有った。
【 完 】
ペルセウス座流星群に願いを ゆりえる @yurieru
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