深夜の散歩を楽しむ方法

@aqualord

深夜の散歩を楽しむ方法

落とし物を拾った。

といっても、500円玉1枚だ。


いつもなら、おおっ、とは思っても、面倒を恐れて見て見ぬ振りをしてしまっていたかも知れない。

ところが、その500円玉は、光っていたのだ。

深夜の散歩というたっぷり余裕のあるときに、草むらの中で街灯の光を反射してキラキラ輝いていたものだから、一体何だろうと思ってつい手に取ってしまったのだ。


最初はそんなキラキラなものだから、偽造されたものかもと疑い、それならすぐに警察に届けないと、と思ってその場でスマホ調べたところ、どうやら本物の500円玉の一種のプルーフ硬貨というものらしいと分かった。

プルーフ硬貨というのは高度な技術で磨き上げた特製の硬貨だそうな。


そんな特別な硬貨だったら落とし主が捜しに来るかも知れないし、ネコババして自分のものにしてしまったらばれるかも知れない。

なら、元の場所に戻しておくのが無難だろう。


私はそう考えて、元の場所に戻そうとして、ふと頭をよぎることがあった。


こんなところに放置しておいたらせっかくのキラキラがあっという間に傷だらけになって、わざわざ拾ったくせに警察に届けなかった自分が悪いということにされてしまうかも知れない。


これが、普通の500円玉なら傷つこうが汚れようが500円は500円なのだが、この特製500円玉はそういうわけにはいかないだろう。

どうやらネットでは額面以上で取引がされているようだし。


なら、警察に届けるか、といえば、昼でも面倒なのに夜ならなお一層面倒くさい。

何時に家に帰れるか分からないようなら尚更だ。


私はキラキラの硬貨を手の上で何度もひっくり返しては眺め、眺めては考えを繰り返した。


しばらくそうした後、私は帰路についた。


キラキラの500円玉?

もちろんもとあった場所に置いてきた。十分楽しんだので。


今日の散歩も小さなハプニングを堪能できて、なかなかいい散歩だった。




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