第35話 疑いの目、ショート

「私が落ちたのは誰かに押されたからだよ?」


その言葉からは嘘が全く感じられなかった。


「え?嘘…足滑らしたんじゃ……」

「嘘じゃないよ!確実に背中が押される感覚あったもん!だからトラップがもう1つあってそれに引っかかったんだと思ってたんだけど……違うの?」


王子の無垢な目を見ると、尚更分からなくなってくる。

メイは確実に足を滑らして落ちたと言った。

その現場を直接見た訳ではないが、ちゃんと話の筋は通っている。


一方の王子の主張は誰かから押されたというもの。

メイの叫び声ですぐ後ろを振り向いた俺だが、その時トラップやモンスターなど見る影も無かったぞ…?


唯一あるとしたらメイが……


いやダメだ!仲間を疑うのは!

こうやって信頼関係は形成されていくんだ!


……だがどちらにしろどっちかは嘘をついているのは確実だ。

いや、もしかしたらここでも偶然のすれ違いがあって……


もう訳が分からない。

俺は頭を抱えた。


「わんさんどうしたんですか?」


声をかけられ後ろを振り返ると、リスポーンしてきたメイが気配もなく立っていた。


「あれ?王子さんも居るじゃないですか。なんでですか?」

「ずっと2人のこと待ってたんだよ」


混乱し、頭に数々の言葉、行動、色々浮かんでくる。


仲間…嘘…信頼…クエスト…裏切り…ボス…すれ違い…仲直り…仲間……

あ…あぁ……


よしっ!決めた!

もうあんまり考えてもしょうがない。


俺は考えるのを辞めた。


「今日は結構やったし解散にしない?」


考えすぎて俺の頭はショートしていた。


「たしかにもう遅い時間だしね」

「疲れましたしね〜」

「じゃあ明日4時から酒場前で行ける?」

「行けるよ」

「行けます〜」

「じゃあそういう事で。おつかれ」


俺は頭からVRゴーグルを外した。

頭の締め付けが取れ、汗にひんやり冷たさを感じる。

窓越しに見える外の現実は、もう暗くなって一日の終わりを告げている。


2日連続で一日中、ゲームをプレイしてきてさっすがの俺も疲れを感じた。


肩こりがすごい。

肩に悪霊でも憑いてるレベルだ。

俺は数秒思いっきり目を瞑り、目を休める。

これをやったら酷使した目の疲れが少しマシになるのだ。


「よしっ!回復!」


もう遅いし今日もツイートして寝るか……


俺が携帯を手に取った時、携帯が通知を受け取り小さく振動した。

通知タブを見ると、どうやら奏多からのメッセージが来たらしい。


『無限に夢中になり過ぎて明日の約束忘れてないよな?笑明日10時からいつもの場所でね〜』


奏多からの確認のメッセージだった。

実を言うと俺が無限を始めると奏多に言った段階で2人で遊ぶ約束をしていたんだ。


『分かってるって!笑また明日ね』


と送り、奏多とのメッセージを閉じた。


次にTwitを開き、昨日同様ツイートを書き出す。

定期的にツイートしないとフォロワーは離れていくため俺にとっては大事な日課だ。


『わん@コンプ厨

無限今日も結構進んだよ。先に進むにつれて新要素がいっぱい増えてきてやっぱり面白い!みんなもやらなきゃ損だよ!』


ツイートしてすぐ、今回もすぐリプが1ついた。

お馴染みのあの人…かぐやだ。


『かぐや

あのツイートの件で最近話題になってますからね。嬉しい限りです!!』


あのツイート…?って何だ?

インフルエンサーかなんかが紹介したのか?

まぁいいや。

よく分かんないけど今日はもう、早く寝よう。


もうこれ以上考える気力など無かった。


明日は10時から奏多と遊ぶから朝早いしね。

俺はふかふかのベッドに入り、瞼を閉じた。


--続く

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