第12話 初めて女子と

 頭が真っ白になる。


「なにコレっ!?」


 佐倉がスマホを覗き見てきた。

 その後、次々と他のメンバーが覗き見る。


「ねえ、これって雫さん、だよね?」

「ああ、間違いない」


 不安そうな天音に返事を送る。


 犯人が自分のスマホを使うはずもなく、送信者は当然のように姉になっている。姉を拘束し、奪った姉のスマホで撮影をした……。

 今まで連絡がなかった理由に頷けた。


「そうだ! 父さんたちは!」


 急いで父と母の名を連続でタップするも、どちらも音信不通。

 無理もないか。娘にこんな真似をする親などいないだろうから、両親も拘束されている可能性が高いだろうし。


「ココ知ってますよ」


「「「「――ッ!?!?」」」」


 斎藤の一言に一同が驚愕する。


「どこだっ!! 早くッ!!」

「もう、せっかちなんだからぁ……。ココ、駅前近くにあるラブホですね」

「はあ!? なんで分かんだよ!」

「ほら、このカーペットとベッド、それに壁紙の内装でわかります。ここのラブホは部屋によって全部内装を変えていることで有名で、これは通称アカ部屋、一番高いとこです」

「えらく詳しいな……っ」

「常識ですよ」


 威張る斎藤をよそに、周りのメンバーに目を配ったが、みんな首を横に振っている。


「あー、まさかわたしが犯人の一味だなんて思ってます? ひどいです」

「つーか、未成年のお前がなんでラブホ事情を知ってんだ?」

「JC時代に色々あったんですよー。聞きたいです?」

「……いや、いい」


 斎藤の過去話などに興味はない。

 写真に写り込むわざとらしい時計には、今から三十分前の時刻だ。罠かもしれないが、行くしかない。


 斎藤が俺のマップアプリにマーカーを付ける。


「よし、行ってくる!」

「ちょっと待って、ハルくんっ!! ひとりで行く気ッ?」


 立ち止まってみんなを見ると、皆一様に険しい顔をしている。


「アンタ、アタシら仲間なんじゃないの? 運命共同体でしょーが」

「佐倉……」

「僕もお手伝いします」

「木下まで……」


 みんなを巻き込みたくない、その一心だったが、ここはひとつ頼ることにした。


 俺たちは昼休みが終わる前に、内緒で学校を出ることにした。『入学早々不良なことはしたくない』と言っていたはずの斎藤まで何故か一緒について来ていた。その行動が一番怪しくて仕方がなかった。




 急いで走ること十五分、斎藤が言っていたラブホ付近に到着する。


「よし乗り込むか」

「ちょっと待ってください先輩。こんな大人数で押し掛けたら不自然ですよ。受付のおばちゃんに『お宅ら何P?』って言われるがオチです」

「じゃあ、どーすんだよ?」

「ここはひとつ、わたしとハル先輩のふたりだけで行くとしましょう」


 俺を含む四人全員が斎藤を怪しむ。

 そのジト目を右から左に眺める斎藤。


「やだなぁ、何もしませんよ……ホント」


「「「「……………………」」」」


「というか先輩方はココ使ったことないんでしょ? 中を知ってるわたしじゃないと危険じゃないですか?」

「それじゃあ相手はハルくんじゃなくても良くない? わたしとふたりで行こうよ」

「女ふたりで、ですかぁぁ?」

「そうだチビ子、最近じゃあラブホで女子会ってのもあるって聞いた」


 佐倉が天音と斎藤を促す。


「えー、わたし女子会未経験者なんですけどー。てゆーか、そのチビ子っての止めてもらえます、胸なし芳一さん?」

「はあッ!?!? この口かッ!!!」

「フンモーフンモー」


 佐倉が思いっきり斎藤の頬を両手で引っ張る。

 あまりの痛みに目に涙を浮かべる斎藤。


「や、やめましょう、喧嘩は」


 木下が仲裁に入る。


「わーったよ! 行きゃあ良いんだろ、行きゃあ」

「さすがハル先輩、物分かりがよろしぃ……痛い」


 真っ赤に腫れた両頬を擦る斎藤。


「ねえハルくん! ちょっとこっち来て」


 少し離れたところで手招きする天音。

 そこへ俺だけが合流する。


「なんだよ?」

「ぜーったいダメだからね? おっぱいが大きいからってぜーったいだよ?」

「アホかっ!! 俺はあんな奴に興味ねえって」

「ハルくんに興味がなくても、あっちが襲ってくるかもでしょ? 絶対抵抗してよ?」

「分かってる! あんなちっこいのに負けるわけねえだろ!」

「木下くんに負けたよね?」

「うっ……」

「いつでも連絡できるようにスマホのスタンバイお願いだよ? わたし信じてるから」

「おう……」


 全然信用されていないことに心を痛めつつ、みんなの所に合流する。


「じゃあ、行くか」

「らじゃ。それじゃあ、おばさん方、ハウス」

「誰がおばさんだってッ、誰がッ!!」

「いひゃい、いひゃい」


 再び、佐倉に激しく引っ張られる斎藤の頬。


 そんな問答を終え、俺たちはラブホに潜入した。




 店内は赤暗い。まさにエロスの塊のような場所だ。

 丸々と太ったスーツ姿の中年と年の離れた少女が手をつないだまま、俺たちの隣を素通りして出ていった。


「やりますなぁ」

「やめろ」


 ジロジローっと斎藤が目で追うので咎めてやる。


 しばらく行くと、全ての部屋の内装を確認できるパネルが見えた。


「ほらコレ」


 一番右上にあるパネルを斎藤が指差す。

 確かにさっき送られてきた写真の部屋と瓜二つだ。


「よし乗り込むぞ」

「ちょい待ちです! 直接は無理ですよ。部屋を借りないと入れてくれません。わたしたちはその部屋の隣を借りましょう」


 確かにその通りだ。

 ただでさえ学生服の男女、それがふたりで昼間っからパネルを覗いてたら怪しいに決まっている。まさにそう言わんばかりの顔を受付のおばさんが向けていた。


「ここは任せてください」


 仕方なく斎藤を先頭に受付に向かう。


「悪いけど未成年お断りだよ」


 無愛想におばさんが告げてくる。


「やだなぁ、お姉さん。コレ本物なわけないじゃないですかぁ。コスプレですよ、コスプレ。大学のコンパの罰ゲームなんですぅ」


 お姉さんと呼ばれたことへの嬉しさか、俺たちを交互に見やったあと、


「どの部屋だい?」

「304号室でお願いしまーす」

「あいよ」


 あっさりと鍵を渡されて、斎藤が先に廊下を歩いていく。

 突き当たりにあるエレベーター前で止まった。


「名演技だな」

「もちろんです。お礼はデザートタワーで手を打ちましょう」

「はあ!?…………わーったよ」

「きゃは♪」


 斎藤がご機嫌になった所でエレベーターが開いた。

 誰もいないエレベーターにふたりで乗り込む。


「パネルで消灯してた部屋、みんなハッスル中ですよ」

「うるさい! 姉貴もいるんだ、不謹慎だろ」

「大丈夫ですよ、お姉さんは」

「えっ!?」


 ちょうど三階でエレベーターが開いたタイミングでの不審な言動。心なしか、斎藤の口が緩んでいた気がした。

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幼馴染に穴をあけたの誰ですか? 文嶌のと @kappuppu

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