第5話 襲われてるのどっち?
最上階である四階から一気に駆けおりる。
屋上へ通じるこのエリアにはいつも一階から四階までほぼ人気がない。何故かは分からない。
だが、今はそれどころじゃない。その人気のないはずの場所から悲鳴が聞こえてきたのだから。
結局最下層まで下りたのだが、まだ更に下り階段があることに気づく。
「地下なんてあったか?」
「さあ……あっ、そういえばつい最近までココって大きな段ボールが大量に積みあがってたよね?」
「そうだったか?」
天音の言うことが正しいとするのなら、恐らくその段ボールの山で地下への階段が見えなかったということだろう。
「助けて」
「「――ッ!!」」
今のは互いにハッキリ聞こえたはずだ。階段のすぐ下から聞こえる。
そこへ向かうと、とんでもない光景を目の当たりにした。
「おいっ! お前っ! なにしてやがる!」
金髪ツインテールの女子が尻もちをつき、そのスカートの中に顔を突っ込んでいる男子がいた。
「やだ……っ、うっ、うっ……」
女子は泣きじゃくっている。
そんなことに目も触れず、両手を地に付けた変態が一心不乱に顔を動かしている。
「アァっ……」
頬を赤らめて吐息を漏らす女子。
急いで男子を引き剥がした。
「離れろ! クソ野郎が!」
「うるさいっ! 邪魔するな!」
俺よりも小柄な男子が激しく揺れ動く。思った以上に力が強い。
すかさず相手の足の後ろを蹴り上げると、男子が尻もちをつき、その容姿が露となる。
「お前……っ」
名前は確か……
そう木下だ。去年同じクラスメイトだったヤツだ。
しかし、俺と同じく陰キャ組だったはずだし、見た目が中性的な為に粗暴な様子でもなかった。こんなことをするなど到底思えなかった。
「チッ……」
「あっ! 待てっ!」
木下は素早く立ちあがり、暗橙色の野暮ったいセミショート髪を振りながら俺の脇をすり抜けて走り去っていった。
「クソっ! きっとアレだ! 柏木先生が言ってた怪奇現象ってヤツに違いない」
壁に背を付けてビクビクしている天音を見て言う。
「うっ、うっ……わたしが悪いんですぅ……」
その声で思い出したかのように女子の方を向く。股を開いたままで縞パンが丸見えだ。
駆け寄ってスカートを直してやる。
「――ッ!?」
突然、女子が俺に抱きついてきた。
「わたしが、わたしが……」
「お前は何も悪くないぞ。悪いのはアイツだ」
「違います。わたしのせいです……わたしがあまりに可愛いもんだから」
「は?」
「わたし、背が低くて愛らしくて小動物系じゃないですか。男たちが放っておくはずないですよね。格好の獲物というわけです」
「えーっと?」
「ほら、わたしのお胸が当たってて、ドキドキしてるじゃないですか」
確かに胸は大きい。
だが、ドキドキはしていない。
恐らく俺は天音一筋だからなのだろう。
「ハルくん! いつまでやってんの!」
天音が睨んでいることに気づき、急いで体を離す。
「彼女さんですか?」
「か、彼女!? ち、違うよ」
「ふーん、なるほど。へー、そーですか」
「な、なに?」
不敵な笑みを浮かべる女子に少し臆する天音。
「それじゃあ、とやかく言う資格ないじゃないですか。もうちょっとくっ付いちゃいましょ」
「止めなさいって!」
「やっぱ、この人のこと好きですよね?」
「どーかなぁ……」
しばしの沈黙に耐えかねた俺は女子に吹っかけた。
「それじゃあ何か? 被害者はあっちで、キミが自ら股を開いて誘惑したってのか?」
「はあ!? なに言ってんですか? しばきますよ?」
「いや、だって可愛いは罪みたいに言うから」
「だとしても、さっきの言い方じゃあタダの淫乱みたいじゃないですか!」
「違うのか?」
「こんちくしょーめ!」
言い争う俺と女子の間に「ストップストーップ」と言って割って入る天音。
「な、名前おしえてよ。わたしは二葉天音、二年。彼は神崎陽翔、同じく二年」
「……斎藤です。
「へー、モカちゃんかぁ。可愛い名前だね」
「名前負けはしてないですよ?」
一年の割に偉く堂々としている。
属性があるとするのなら、腹黒系不思議ちゃんってとこか。本人には口が裂けても言えないが。
一年……。
「一年っつったら高校生になってまだ数日じゃないか」
「そうです。四月の入学式を経てまだ数日の、眩いばかりにキラキラした新JKです」
「そっかぁ、新JKかぁ。わたしも思い出すなぁ」
「おばさんには遠い過去でしたね」
「えっ!!」
足を踏み出そうとした天音を押さえる。完全にキレている。
聖母のような、と噂されている天音をここまで豹変させるとは恐るべし。
だがしかし、俺は知っている。学校の天音はよそ行き姿であり、俺の部屋での天音は結構キレるということを。
「それはそうと、さっきのひと、何か飲んだとか言ってましたね」
「なんだと! 詳しく!」
「頭撫でてくれたら考えます」
チラリと天音を見る。「へーなでなでするんだぁ。ふーん」とでも言いたそうな顔をしているが、ここは情報を得るために仕方のないことだ。
「きゃふん♪ うまいですね、ハル先輩♪」
猫のように喜ぶ斎藤と、ライオンのように怖い視線を送ってくる天音がいた。
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