スリープウォーク

いおにあ

深夜の散歩


 午前二時。目覚まし時計がなった。僕は深夜の散歩への仕度をする。


 この時間帯が僕は大好きだ。草木も眠る丑三つ時。街灯に照らされた光の空間が、ポツポツと離れ小島のように点在していて、それ以外は真っ暗な闇。その中を歩いて行くのは、まるで人類が滅亡したあとにたったひとりで散歩しているようで、心躍る。


 誰もいない時間と空間を心ゆくまで僕は楽しむ。


 だけれど、今夜はそんなひとりの空間は楽しめないみたいだ。


 全長2メートルほどの、ロボットのブリキのおもちゃに出会ってしまったから。


「ルル太!」

 僕は思わずそう叫ぶ。ルル太。こどもの頃の僕の遊び相手だったおもちゃ。引っ越しか何かの際に、行方不明になったおもちゃ。


 ガガ、ギギ、と軋んだ音をたてながら、ルル太は無言で僕に近寄ってくる。懐かしいなあ。いつも遊び相手になってくれたっけ。背の高さは二十倍ぐらいになっているけれど。


「そうか、お前も夜の散歩がしたいのか。いいよ。ついてきな」

 ということで、ルル太も僕の夜の散歩に参加してくれる。


 次に出てきたのは、ヒロシだった。幼稚園のときの親友。いつしか疎遠になっていたけれど、あいつは昔と少しも変わらない様子だった。ヒロシも真夜中の散歩に参加してくる。


 その次には、飼い猫のディディ。三年前に旅だってしまったけれど、構わない。深夜の世界では死者も生者も平等だ。


 その次に来るのは、サッカーボール。大好きな卵焼きにラーメン。初恋の人にトリケラトプス。図鑑で見て夢中だった、リング星雲。


 夜の世界では、時間も空間も自由自在に変幻自在だ。


 僕たちの世界は、夜の世界を闊歩する。足下に、街の灯りが見える。まるで、お星様のようだ。

 まるで百鬼夜行だ。あるいは、森羅万象を乗せた銀河鉄道。


 いったいこれはいつまで続くのだろう。でも、そもそも時間そのものがここでは無意味なのかな。


 僕の記憶の旅はまだまだこれからだ。

 



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スリープウォーク いおにあ @hantarei

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