第12話 あたしの物語 2(ミーティア)

 舞踏会や晩餐会に行けば、注目されるのは姉のエスターだけ。


 貴族たちは、こぞって姉を褒め称えた。


「エスター嬢は真面目で優秀、おまけに美人ときたもんだ。いやぁ、伯爵は素敵なお嬢さんを持ちましたなぁ」


「噂では、女学院では生徒会長も務めたとか。しかも学業のかたわら、孤児院で慈善活動もしてらっしゃるのでしょう? まさに、貴族令嬢の鏡だわ」


 姉へのあまたの賞賛に、両親はいつも誇らしげな顔をしていたものだ。


 容姿端麗な才女と呼び声高い姉。対してあたしに向けられるのは、侮蔑ぶべつでも憐れみでもなく、ただの無関心。


 皆、あたしのことを「伯爵家の下のご令嬢」や「エスター嬢の妹さん」と呼ぶ。


 名前も顔もろくに覚えてもらえず、姉との比較対象ですらない。居なくても誰も気付かない、まるで透明人間にでもなった気分だった。


(なによ、あたしは主人公なのよ)

 

 エスターが小説どおりの最低ないじめっ子だったら、悪事を暴いて「ざまぁ」できたのに。なぜか姉は原作とは違って、面倒見の良いお人好しだった。


 それが、あたしをより苛つかせる。

 

(主人公はもっと評価されるべき。みんなに愛されるべきなの。なのに、エスターが全部持って行っちゃう……。何であたしが、こんな思いしなきゃいけないのよ!)


 胸の中にドロドロとした感情が渦を巻き、底なし沼のように次から次へと憎悪が溢れ出す。


(もしかしたら、あたしが異能を手に入れるイベントも起こらないの……?)


 前世だと思っていた夢は所詮しょせんただの夢で、自分は一生、優秀な姉の影に隠れて目立たない人生を送るのかと思うと、恐ろしくなった。


 日ごとに焦りと不安が募る。

 あたしは主人公になれないんだ……と、諦めかけたそのとき。

 

 エスターの誕生日に、小説のシナリオどおり、あたしは異能を手に入れた。

 

 厳密に言えば『盗みの力』みたいだけど……。


 

(そんな内容、原作にあったっけ? まぁ、いいや)


 

 やっぱり夢の中で読んだ【黒薔薇姫】のシナリオどおりにイベントが起こるんだ、と喜んだのも束の間。今度はエスターが復讐してこない。それどころか、家を出て自立しようとしている。

 

 

(殺害未遂イベントが起きないと追放ざまぁできないし、その後のシナリオにも影響しちゃうかも。それに、異能を盗んだとか言いふらされたら、あたしのイメージ悪くなっちゃうじゃん! どうにかして、小説どおりに修正しないと――)


 

 そこで思いついたのが、自分で自分を刺し、罪をなすりつけるという自演策だった。

 

 計画は見事に成功!

 異能にしか興味ない両親は、笑っちゃうくらい簡単にだまされた。


 エスターは、頭がおかしくなっちゃったという理由で、療養所――とは名ばかりの監獄に収容された。


 あそこは、貴族御用達の流刑地るけいち。病気の療養と称して厄介者を監禁し、病死としてひっそり処分する場所。一度ぶちこまれたら、死ぬまで出られない。


 

(ふふっ、ざまぁ。脇役のくせに勝手な行動して、あたしより目立とうとするからよ)



「姉が死んだのに赤は派手過ぎね。ピンクは子供っぽい。うん、これにしましょう。黒薔薇姫には、この色がふさわしいわ」



 あたしはクローゼットから取り出したドレスを着て、鏡の前でくるりと回った。

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