第4話 復讐か、自由か

 部屋に駆け込んだ私は、化粧台につっぷした。


 

(結局みんな、私の力だけを愛していたのね)

 

 

 切なさと悲しみが込み上げてきて、じわじわっと涙がにじむ。


 鏡に映った私の顔は、ひどく頼りなさげに歪んでいた。

 しかし、瞳だけは鋭い光をたたえてギラギラ輝いている。

 

 

 正直、悔しくて腹立たしくて、憎らしかった。

 


 ――そもそも、昔からミーティアは我が儘だったのよ。


 

 他人の持ち物を欲しいとねだって、泣いて駄々をこねて。可哀想だから仕方なくあげると、すぐに興味をなくして、また別の物を欲しがる。


 お気に入りのドレス、装飾品、本、ぬいぐるみ……これまで散々、大切な物を取られてきた。


 

 ――許せない。……復讐してやる。

 

 

 残酷な考えが次々と浮かぶ。

 

 想像の世界で、私は何度もミーティアを殺した。それでも憎しみは尽きることなく、むしろ頭の中の復讐劇はどんどん悲惨さを増してゆく。


 憎悪が最高潮に達したとき、ふと鏡に映った自分の顔を見てぎょっとした。


 

 私はわらっていた。

 

 ひどくみにくい顔は、あの夜、私から異能を奪ったミーティアにそっくりだった。

 

 

 他人を恨んで傷つけたら、妹と同類になってしまう。

 それだけは、絶対に嫌だった。

 


(復讐したら、あの子の思うつぼ。駄目よ、冷静になるのよ、私。…………そうだ!)


 

 放り出されていたエメラルドのネックレスをひっつかんで、私は椅子から立ち上がった。

 

 部屋を出ると、いつも私を監視している護衛が一人もいない。


 希少な異能力者は、人身売買の標的にされやすい。だから私は、幼い頃から不自由をしいられてきた。どこへ行くにも送迎馬車と監視付き。何をするにも護衛役がつきまとっていたのに。

 

 守る価値がなくなったとたん、この扱い。

 もはや落ち込むより、呆れて笑ってしまう。


「ひとりで外出するのは何年ぶりかしら」


 護衛という名の監視役がいないと、こうも身軽なのかと、私は驚いた。


(今まで出来なかったこと、全部できるんだわ! 何をしよう? どこへ行こう?)


 そう思った瞬間、やりたいことが一気に浮かんできた。

 

 

(私、すごくワクワクしてるわ!)


 

 異能がない自由な生活に、ずっと憧れてきた。

 その夢が、今まさに叶っている。


 晴れやかな気持ちで、私は屋敷を飛び出した。


 御者に行き先を告げて、馬車に乗り込む。

 軽快なひづめの音を響かせて、馬が颯爽と走り出す。


 

 私は自由な旅の一歩を踏み出した。

 

 


◇◇◇

 

 

 目的地は、高級住宅街に建つ豪邸。

 

 屋敷の一室に入ると、ベッドに横たわっていた美少女が、ぱあっと瞳を輝かせて「エスター!来てくれたのね!」と喜んだ。


 

「こんにちは、アデル。しばらく来られなくてごめんね。体調はどう?」


「今日はすごく元気なの。それにエスターが遊びに来てくれたから、もっと元気になったわ!」


 目の前の彼女――私の親友、アデル・シレーネは、天使のような美しい顔に無邪気な笑みを浮かべ、「今日はどんなお話をする?」と瞳を輝かせた。

 

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