第9話 シャルロ王国の学校に編入!

 私を乗せた飛空艇は、シャルロ王国の着陸場に無事、着陸した。


 そして私は、着陸場でナギトたちと別れることになった。


「じゃあ、私はこれで」

「ああ、二度と会うことはないだろうな」


 ナギトは冷たく言った。

 私は一瞬、ムッとしたが──おや? ナギトは少しさみしそうだ。飛空艇内では、剣術や魔法や術の話で、結構盛り上がったっけ。


「あー、その、じゃ、じゃあな」とナギトは言った。

「あ、うん」


 私はナギトと執事のジャガジーさんと別れた。ナギトって男の子、ちょっと気になるな。……って、ほ、本当にちょっと気になっただけなんだからね! 深い意味はないから!


 さて、私はそのまま、「勇者・聖女養成学校シャルロ校」に向かった。編入の手続きをするためだ。

 その学校は、通称「スコラ・シャルロ」と言われ、全国的にも有名な勇者と聖女の養成学校だ。




「はあ、エクセン王国の出身ねえ」


 私はスコラ・シャルロの職員室に行き、手続きの用紙に必要事項を記入していた。編入の手続き担当者は、ラギット・グラーズンという中年男性教師だった。


 グラーズン先生は、鼻で息をして、私を見た。


「ま、エクセンなんて小国だろ」


 私はムカッときて、顔を上げた。

 私は、自分がエクセンの元聖女であることは、隠すことにした。エクセン王国は、小さい国だったので、他国からバカにされることが多いからだ。


「その点、ここ、シャルロ王国は大国だ」


 グラーズン先生は胸を張って言った。


「君はエクセンに帰って、聖女を目指すのかね?」


 本当はエクセンの元聖女ですけどね。黙ってよっと。


「でも、この学校には、エクセンなどという小国の聖女を目指す生徒などいないのだ。シャルロ、ビダーラン、ドスコルス、アダマーグなど、超大国の聖女が、この学校から輩出はいしゅつされているのだよ!」

「エクセン王国だって、立派な王国ですよ」


 私は言い返したが、グラーズン先生は構わず言った。


「そうだろうが、確か、エクセンは建国102年だっけ? その点、シャルロ王国は2500年の歴史を持つぞ。ま、とにかく聖女になるには狭き門だが、指導はしてやる」

「ご指導、よろしくお願いします」


 私はこのグラーズンにブチきれそうになりながら、必要事項を記入した。


「手続きは完了だ。今から2年B組に行く。私が担任だ」


 私はめまいがしそうになった。このイヤミな教師が、私の担任ですって?


「あ、そういえば、今日はもう1名、2年B組に編入した生徒がいる。仲良くしたまえ」


 ん? そうなの? ふーん……。




 2年B組の教室は2階にあった。

 グラーズン先生と一緒に中に入る。30名の生徒が、私の方を見た。

 勇者を目指す生徒が10名、聖女を目指す生徒が10名、魔法使いを目指す生徒が5名、僧侶を目指す生徒が5名いるらしい。


 生徒たちは、私を見て色々ウワサしている。


「へえ、あの子が新しく編入してきた子?」

「普通ね。エクセン王国から来たって?」

「あの小さい国?」


 私が咳払いし、自己紹介をしようとした時──。


 ガラッ


 教室の扉が開いた。


 えっ?


「遅れて申し訳ありません」


 女生徒だ。その子も編入生だった。……っていうか、この子……。


「私、ジェニファー・ドミトリーです! よろしくお願いいたしますわ!」

(はあああああっ?)


 私は目を丸くして、その女生徒──ジェニファーを見た。


 な、な、な、何でこんなところにいるの? ジェニファー!


 ジェニファーは私をチラリと見て、ニヤリと笑った。な、何かを企んでいる。絶対! それからまた、2年B組の生徒の方に向き直った。


「ジェニファーさんは、エクセン王国の、将来の女王候補です!」


 グラーズン先生は、ニコニコ顔でジェニファーを紹介した。な、なんで、私と態度が違うの?


「今、彼女は軍隊指揮官を任命されているのです!」


 おおおおっ!


 生徒たちの歓声が上がる。


「しかし、特別に許可をもらい、我が『スコラ・シャルロ』に編入してくれました。休日の土曜日にエクセン王国に帰り、軍隊指揮官の仕事をするのだそうです。偉いですな~!」


「へえ!」

「軍隊指揮官だって! すごい」

「なかなかの美人だね」


 生徒たちは感嘆の声を上げた。


 するとジェニファーは、この時とばかり、声を張り上げた。


「皆さんにプレゼントがあるわ! 女子にはルナッサンスのハンドバッグ、男子にはピッタ・オルテンの革靴を差し上げるわ! もれなく全員に!」


 おおおお~!


 生徒全員、驚きの声を上げた。


 ルナッサンスとピッタ・オルテンは、若者に大人気のブランド品メーカーだ。


 なるほど、ジェニファーは、グラーズン先生にも、それなりの物をプレゼントしたんだろう。どうりでグラーズン先生がニコニコ顔のわけだ。

 全部、エクセン王国の国家予算から出してもらったんだろうが……。


 私は一番後ろの窓側の席、ジェニファーは、一番前の席に座った。──休み時間になった。


「ジェニファー! 君はなんて気前が良いんだ?」

「さすがエクセンの女王候補だね」

「もっと何かくれよ」


 生徒たちは、ジェニファーの席に集まって、騒いでいる。


 すると……。


「ミレイアって子に近づかないほうが良いわよ~」


 ジェニファーは、私の陰口を言い始めた!


「あいつ、私の婚約者を奪おうとしてたんだから」


 は、はあ? 逆でしょ? まあ、もうレドリー王子なんか、私には関係ないけど。


 しかし、生徒たちはジェニファーの言葉を本気にしてしまい、私をにらんでくる生徒もいた。


「最低ね」

「ミレイアだっけ? あんまりしゃべらないほうがいいな」

「近づくのもよそう」


 ……ふーん、ジェニファーがこの学校に来たのは、私に嫌がらせをするためか。なんと執念深しゅうねんぶかい! ちょっと異常よね。


「私、今度の『スコラ・シャルロ魔法競技会』に出るつもりよ!」


 ジェニファーが声を上げた。


「そこで優勝するつもりなの。これを見て!」


 ジェニファーがカバンから取り出したのは、一本の魔法の杖だった。魔法競技会は、魔法の杖の装備はゆるされている。

 よく見ると、その魔法の杖……!


「これは、ゴルバルの杖よ!」


 おおお~! 生徒たちはまたしても声を上げた。ゴルバルの杖といえば、名匠魔導杖職人のロージア・バイカラが製作した、最高の魔法の杖だ。軍隊指揮官の権限で、手に入れたんだろう。


(あの杖があれば、その者の魔力は10倍になる)


 私はため息をついて、教室の外に出た。


 それにしても、スコラ・シャルロ魔法競技会か……。


 私は、(興味ない、興味ない)と唱えながら廊下を歩いていると……。


 ドガッ

 

 誰かとぶつかった。私は尻もちをついた。


「いってえな! よそ見してんじゃねーよ!」


 聞き覚えのある男子の声だった。


(あっ……)


 目の前を見ると……あいつがいた。


 ナギト……ナギト・ディバリオスだった。

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