第8話 その頃、ジェニファーは?②

 エクセン王国、新軍隊指揮官のジェニファーは意気揚々いきようようと、アディアス山に来た。2匹のオーガ――青オーガと赤オーガを退治をするためだ。


 パンッ

 ゲシッ


 しかし4名の兵士は、2匹のオーガの平手と蹴りで、はね飛ばされてしまった。


「ほへ?」


 ジェニファーは口をあんぐり開けた。


「ちょ、ちょっとゴーバス! 兵士が弱すぎじゃない?」

「だから、人数が足りないって言ったでしょ!」


 副隊長のゴーバスは言ったが、ジェニファーは口をとがらせている。


「ど、どうにかしてよ」

「えーっと……。この近くに国境がありますが、隣国のバナール王国があります。そこに有名な魔法戦士の軍隊がおります。彼らに協力してもらいましょう」

「ええっ? 名案じゃないの!」

「しかし、隣国の戦士を借りるとなると……我がエクセン王国の軍隊の評判が、いちじるしく低下します」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが! あと、ついでに20名、うちの兵士を呼んできなさい!」

「わ、わかりました」


 ゴーバスは怪我をしていない1名の兵士と一緒に、馬車で隣国のバナール王国に急いだ。

 他の3名の兵士は、エクセン城に待機している兵士たち、20名を呼びに行った。


 バキイイッ

 ドガアッ


 青オーガ、赤オーガは、今度は村役場を叩き壊し始めた。


 ラディアル山ふもとの村は、もう壊滅かいめつ状態だ。


「ジェ、ジェニファー様」


 ラディアル山ふもとの村の村長は、ジェニファーに聞いた。


「何よ」


 ジェニファーはのんきに爪を磨いている。オーガ2匹が暴れ回っている音が、周囲に響いていた。


「わしらの村は、どうなってしまうんでしょうか」

「知らない」


 ジェニファーはまだ爪を磨きながら言った。村長は目を丸くした。


「副隊長のゴーバスが連れてくる、隣国の魔法戦士しだいじゃない?」


 村人たちは、不安そうに顔を見合わせた。


 ◇ ◇ ◇


 2時間後、隣国の魔法戦士がやってきた。


「タアアアアッ」

「ギエエエエッ」


 ズバアアアアアッ


 魔法戦士の女リーダー、アネット・ジャルファンが炎をまとった剣で、青オーガを一刀両断した。青オーガは、一瞬にして宝石に変化してしまった。


「す、すごい! 青オーガを退治したわ!」


 ジェニファーは声を上げた。


 魔法戦士の他四名も、赤オーガを包囲し――。


「アイスバーン!」


 ガキイイイインンッ


 赤オーガを、魔法で一瞬にして、こおらせた!


「ハアアアッ 覚悟!」


 そこにアネットが、赤オーガの頭の上から剣を振り下ろす。


 ズバアアアッ


「ギャアアッ」


 赤オーガも宝石に変化してしまった。隣国の魔法戦士たちは、エクセン王国に現われたオーガ2匹を、いとも簡単に退治してしまったのだ。


「……助かったわね。だけど、あたしらの兵士は弱すぎない?」


 ジェニファーは不満顔だ。

 副隊長ゴーバスは汗をぬぐった。


「うう……実は、今まで聖女の結界に守られすぎていて、兵士たちの実践じっせん経験がほとんどないのです。だから、ここまで弱いのです」


 ゴーバスの言葉に、ジェニファーは頭を抱えた。


 追い打ちをかけるように、魔法戦士の女リーダー、アネットは言った。


「えーっと、急な呼び出しであり、移動費、討伐とうばつ料を合わせますと――我々への報酬ほうしゅうは、2000万ルピーです。早急にお支払いください」


 ジェニファーとゴーバスは、真っ青な顔をして、顔を見合わせた。ジェニファーの婚約者、レドリー王子の年収と、ほぼ同じだった。



 ジェニファーとゴーバス、兵士たちが意気消沈して、城に帰ると……。元聖女のアルバナーク婆が怒鳴りこんできた。


「何をやっとる! ジェニファー!」

(あー、うっさいのがきた、このババア)


 ジェニファーは舌打ちした。


 アルバナーク婆は、追放した元聖女のミレイアの師匠であり、現在も城の術師たちの相談役だ。


「さっきの2匹のオーガ討伐とうばつの一部始終を、魔導映写鏡まどうえいしゃきょうによって見ておったぞ!」


 アルバナーク婆は声を上げた。


「隣国の魔法戦士に助けられるとは、何たるはじ、何たる屈辱くつじょく!」

(あー、うっさい)


 ジェニファーは伸びをしながら、アルバナーク婆に言った。


「お言葉ですけど、今日は公式の初任務です。誰でも失敗はあるでしょ」

「失敗? そういう問題じゃない気がするがね! いい加減、聖女ユレイアを連れ戻せ!  でも、今頃は、シャルロ王国の勇者・聖女養成学校に編入しているから、連れ戻すのも難しいが……」

「え? なにそれ。編入ですって?」


 ジェニファーは驚いたように、アルバナーク婆を見やった。

 アルバナーク婆は静かにうなずいた。


「そうじゃ。ユレイアも17歳、学業はおろそかにできんからな」

「へえ、そうなの? 私も、シャルロ王国の学校に編入する!」

「はああっ?」


 アルバナーク婆は、目を丸くした。ジェニファーは構わず声を上げた。


「私、ユレイアに負けるわけにはいかないの。シャルロの学校で、ユレイアを打ち負かしてやる!」

「ジェニファー! 軍隊指揮官の仕事はどうするんじゃ!」


 アルバナーク婆は叫んだ。


 ジェニファーはのんきに口笛を吹き、答えた。


「しーらない。ゴーバスが代わりにやってくれるんじゃないの?」


 アルバナーク婆は呆れて言葉も出なかった。レドリーの婚約者ジェニファー……。ここまでアホだったとは……。


 その頃、婚約者のレドリー王子は、酒場でワイン5リットルの一気飲みを敢行かんこうしていた。

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