第7話 その頃、ジェニファーは?①

 ミレイアが飛空艇ひくうていで、シャルロ王国に向かっている時──。


 ミレイアが追放されたエクセン王国では、盛大な「任命の儀式」が行われようとしていた。


『エクセンの国民! 私に注目なさい!』


 ジェニファーは、エクセン城のベランダから、魔導拡声器まどうかくせいきを使って叫んだ。


みなもの、私にひざまずくが良い! そして、私がこれからする偉大な功績を、永遠に語り継ぐのです!』


 ベランダ下の広場に集まったのは、1万人のエクセン王国国民。彼、彼女らは、ジェニファーの任命の儀式を見ていた。


 国民はジェニファーが、どんな役職につくのか、まったく知らされていない。


「なんだ? どんな発表があるんだ?」

「さあ……?」


 国民はレドリー王子の婚約者、ジェニファーに対しての大発表を、首を長くして待った。


 そして、彼女の隣に立っていたレドリーの老執事ろうしつじ、ドヨモット氏の声が響いた。


『レドリー王子の婚約者、ジェニファー・ドミトリーに重要な任務を与える! ジェニファー・ドミトリー! おぬしに〈軍隊指揮官〉の任務を与えよう!』


 ええええええー?


 エクセン王国国民は、驚きの声を上げた。


 弱冠じゃっかん17歳のジェニファーは、レドリー王子の婚約者というだけで、すさまじく高い地位にのぼりつめてしまったのだ。17歳の少女が、国の軍隊を率いるのだ。


『ホホホ! 良くってよ!』


 ジェニファーはご満悦まんえつで、ベランダから魔導拡声器まどうかくせいきを使い、声を上げた。


『ミレイユなんかに負けてたまるもんですか! 元聖女が何だっていうのよ。私の軍隊が、魔物を蹴散らしてくれるわ!』


 ジェニファーはこの間、対ポイズンモンキー戦のことなどすっかりわすれていた。


 ちなみに、王は病気がちで寝込んでいた。すべてレドリー王子のはからいで、このジェニファーの任命は適当に決められたことだった。

 

 民衆は首を傾げるばかりだった。


「聖女のミレイアを追い出しちゃったんだろ? 結界なしで、大丈夫か?」

「いや、ジェニファー率いる軍隊が、魔物を倒してくれるさ。だから大丈夫だろ」


 そんな演説の最中、レドリー王子はというと……。城下町の酒場で女性をナンパしていたのだが。




 さて、ジェニファーは大演説を終えて、さっそく与えられた軍隊指揮官の執務室に行った。

 すぐに、副隊長ゴーバスが、あわてたように入ってきた


「大変です、ジェニファー様!」

「ゴーバス! ノックはどうしたの!」

「いや、申し訳ない、それどころじゃないもんで。東のラディアル山に、オーガ2匹が現れました!」

「オーガ族? オーガ族ってなに?」

「あ、が、が……」


 ゴーバスは頭を抱えそうになった。この小娘は、オーガ族も知らんのか。身長4メートルはある、鬼の魔物だ。そいつが2匹もいる! オーガは恐ろしい魔物だ。とにかく馬鹿力があり、体力もある。


「オーガは強力な魔物です! ラディアル山から、城下町の方に移動してくると思われます!」

「えっ? こ、ここに? やばいじゃないの!」

「そのとおりです! ジェニファー様、ご指示を……」

「えーっと……じゃあ、兵士8名で、オーガを討伐とうばつしなさい!」

「は、8名では無理ですよ。16名はいないと」

「私の護衛がいなくなっちゃうじゃないの!」


 ジェニファーは舌打ちした。


「8名で十分でしょ。しょうがない、初任務だから、私も行くわ。ゴーバス、あんたも来るのよ」

「も、もちろんです」


 ジェニファーとゴーバス、そして8名の兵士たちは馬車に乗り込んだ。2時間後、城から20キロメートル離れた、ラディアル山のふもとにやってきた。


「あ、あいつらなの? オーガって?」


 ジェニファーは声を上げた。


 いる。オーガがいる。頭に角の生えた、筋肉質の魔物だ。肌の色が青いオーガと、赤いオーガがいる。

 で、でかい! 身長4メートル以上ある巨大な魔物だ!


 ドガアアッ


 バキイッ


 2匹のオーガは、農村の家々を、棍棒で叩き壊していた。


 すさまじい音だ。村人は村の入り口の方に避難している。


「なんとかしてくだせえ、ジェニファー様!」

「たすけてください!」


 村人はジェニファーを見て懇願こんがんした。


「よーし! 兵士ども、さっさとオーガに突撃!」


 ジェニファーは命令を下した。

 兵士8名は顔を見合わせていたが、意を決してオーガたちに突撃していった。


 パンッ

 

 先頭の兵士2名が、巨大な青オーガの平手で、はね飛ばされた。


 ガシッ


 次の2名が、赤オーガに蹴り飛ばされた。


 スタタタッ


 残った4名の兵士は、村の入り口の方に、逃げ出した。


「ほへ?」


 ジェニファーは口をあんぐり開けていた。

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