第6話 少年ナギトの正体は?

 私を助けてくれた謎の少年は、私に言った。


「あんなおのくらい、よけらんねーのかよ」

「あ、あなた誰ですかっ?」


 私はムッとしながら聞いた。


「オレか?」


 少年は胸を張って言った。


「オレはナギト! ナギト・ディバリオスだ。年齢は17歳」


 17歳? 私と一緒か……。


 このナギトなる少年は黒髪。レドリーほど長身ではないが、引きまった筋肉をしていた。顔立ちは……女の子にモテそう。笑うと、可愛げがあるのだ。


 そしてとてもきれいな、んだ目をしている。まるで子どもみたい。


「私はミレイアです。……あらっ? ちょっと見せなさい!」


 私は急いでナギトの腕をつかんだ。


「お、おいっ! 何すんだよ!」


 ナギトの腕から、血が出ている。さっき、アイアンナイトのおのはじき飛ばした時に、おのやいばの破片が当たったらしい。


 私は急いで、彼の傷跡きずあとに手を当てた。


「おい、離せって、魔法使い!」

「私は魔法使いじゃなくて、聖女です。暴れないの!」


 私が一喝いっかつしたら、ナギトは目を丸くして、「せ、聖女? お前が?」と言いつつ、私を見た。


「ヒール!」


 私が唱えると、じわじわとナギトの傷跡きずあとの血液が止まった。あと1時間で、傷痕きずあとは完全に消えるだろう。


 ナギトは舌打ちした。


「……ふん」

「な、何です? お礼をちゃんと言ってもらいたいですね。治癒ちゆしてあげたんだから」

「余計なことしやがって」

「はああ?」


 私はむくれた。そんな言い方はないでしょう?


「別にオレは……傷を治してくれなんて、頼んだ覚えはないぜ……あ、いててて!」

「あーもう、ほらっ」


 私はあきれた。


「結構、傷は深かったんですよ。痛いはずです」

「わ、わかったよ」


 ナギトは顔を真っ赤にして、私の手をふりほどいた。


「……あ、ありがとな。治せだなんて、頼んでねーけど!」


 一言多いんですけど……そう思ったその時!


 不思議な映像が、頭の中に入ってきた。


 ナギトに似た戦士──いや、勇者が、私に似た聖女に、剣を差し出している。


「オレの剣を持っていけ……!」


 ええ? 何これ? この二人、一体誰なんだろう? どうして剣を……。

 

 私に似た聖女は、剣を受け取ろうとしている──。


「おい!」

「えっ?」


 私はハッとした。ナギトは眉をひそめて、私を見ている。


「お前、どうしたんだ? 何ぼーっとしてるんだよ」

「い、いえ、別に」


 私は、さっきの不思議な映像を、頭の中から振り払おうとした。確か、ジェニファーを見たときも、変な映像を見た気がするが。


(ふうっ)


 私は深呼吸して、この奇妙な映像のことは、忘れることにした。考えても意味が分からなかったからだ。


 ところで、ナギトという名前は分かったけど、この人の素性すじょうは一体? かなりの身体能力。かなりの剣の使い手だということは分かった。


「あなたって、どこかに所属している剣士なの?」

「ああ、それは──」


 ナギトは腕の調子を確かめながら言った。


 すると彼の後ろの方から、太った中年男が早歩きでやってきて、ナギトに頭を下げた。


「ナギトぼっちゃま!」


 ぼ、ぼっちゃま……。私はプーッと噴き出しそうになった。


 ナギトは顔を真っ赤にして、私をにらんだ。


 太った中年男が言った。


ぼっちゃま、無茶をなさる! 一人で魔物に相対あいたいするとは。心配したですだ!」

「ジャ、ジャガジー! 向こうの土産物屋で待ってろと言ったろ。休憩きゅうけい時間まで、オレについて来るんじゃねえ。そもそもお前は執事しつじだろうが。屋敷で待ってりゃいいのによ」


 ナギトがブツブツ言うと、このジャガジーという中年男は、またナギトに向かって頭を下げた。


「しかし、あなたのお父様……ギラディーきょうが、しっかりナギトぼっちゃまを見張れと」

「あのアホ親父……」


 ナギトはギリリと歯噛はがみした。


ぼっちゃまは、ゆくゆくは我がグリンマゼル団の党首になられるお方ですだ。怪我とかはないようにしていただかないと」


 え? ちょっと待って。グリンマゼル団って……あの有名なグリンマゼル団?


「あの暴力団……あ、失礼。超有名な巨大組織の、グリンマゼル団ですか?」


 私が聞くと、執事しつじのジャガジーさんが、ニンマリ笑って、「そうですだ、おじょうさん」と言った。


「まあ、我がグリンマゼル団は、暴力団です。確かに昔は、金品強奪など、窃盗せっとうなどもやっておりました。しかし、最近はそのようなことはしておりませんぜ。魔物が現れたら、身を張って、民衆を助けています」

「ふん」


 ナギトはため息をついた。


「ほーらな。グリンマゼルと聞いただけで、眉をひそめてやがる。おい、ミレイアだっけ? あんた、もう行きな。オレたちと関わるとロクなことにならねえぜ」


 その時……。


飛空艇ひくうていの魔力の補充ほじゅうができました!」


飛空艇ひくうていの係員が、私たちに向かって叫んだ。


「乗客の皆様、飛空艇ひくうていにお戻りください!」

 


 ……で、飛空艇ひくうていに戻ったわけだけど……。


 ナギトが隣の席にいる。


 同じ飛空艇ひくうていに乗っていたというわけ。


 どうやらナギトの執事しつじ、ジャガジーさんが、係員に頼み込んで、ナギトと隣の席にしてしまったらしい。どうやら、私、ジャガジーさんに気に入られちゃったみたい。


 飛空艇ひくうていは空を飛び立っている。窓の外では、美しい入道雲が広がっていた。


「お前、どこに行くんだよ?」


 ナギトが聞いたので、私は答えた。


「シャルロ王国に行くのよ。シャルロの学校に編入するの。フレデリカっていうおさななじみの友達にも会いたいわ」

「シャルロに行くのか? なんだ、俺が住んでいるとこじゃねえか。俺もシャルロに帰るとこさ」


 ええ~っ? ナギトたちと一緒にシャルロで降りるのか……。


 2時間後、私はシャルロ王国に降り立つことになった。

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