第5話 私と謎の少年

 私はミレイア。元大聖女。エクセン王国を追い出された私は、飛空艇ひくうていで旅立つことにした。しかし、そこには巨大な魔物、ポイズンモンキーがうろついていた。


 ポイズンモンキーを退治した私は、飛行場から、飛空艇ひくうていに乗り込むことができたのだった。


 座席に座り、1時間ほど、空の快適な旅を続けていると――。


『お客様に申し上げます。エクセン王国国境付近で、魔力の補給をいたします。ご了承ください』


 魔導拡声器まどうかくせいきによる、飛空艇ひくうてい操縦者そうじゅうしゃの放送があった。


(変ね……)


 これは異例いれいのことだ。

 飛空艇ひくうていには魔力をびた巨大クリスタル、「ツーオイ石」が仕込まれている。だから、動力源である魔力が枯渇こかつすることはない。


(やはり、私が結界を張るのをやめた影響だろうか?)


 私は少し責任を感じながら、着陸を待った。


 ◇ ◇ ◇


 飛空艇ひくうていから降りると、国境付近の飛行場の休憩所きゅうけいじょに案内された。しかし、休憩所きゅうけいじょの外――(飛行場と逆方向)を見ると、何やら騒がしい。そちらには商店街がある。


 ガシャン!


 ガラスが割れる音がした。向こうにあるレストランの窓が割れた!


(あっ!)


 私は思わず声を上げそうになった。


 道に、魔物がいる! この魔物は……! 鉄のよろいに身を固めた、アイアンナイト!


 バゴオオオッ


 今度はブロックべいを、手に持ったおので破壊した!


 近隣の商店街を破壊して回っているようだ。


「待ちなさい! 私が相手だ!」


 私は飛びだしていって、声を上げた。


「お、おい、ねーちゃん。き、危険だぞ」


 野次馬の一人が、私を心配して声をかけた。


「私は魔法が使えます! 皆さんは、安全な場所へ避難ひなんしてください!」

「お、おう? あんた、魔物討伐家とうばつかか何かか?」


 野次馬たちは、そこから10メートルは離れた。


(ここでも魔物が……! 結界を解いた影響が出ているのか)


 私は国民に申し訳ない気持ちになったが、今はそんなことを言っている場合ではない。


 アイアンナイトは無言で私をにらみつけると、右手に持った鉄塊てっかいのような巨大なおのを構えた。


 ギシリ


 アイアンナイトのよろいがきしむ。


 ブウウンッ


 すさまじい風圧! おのを振ってきた!


「はあああああっ!」


 私は集中し、手を前に突き出した。


 ガキイイイン


 その途端、一瞬にしておのこおりつかせた。氷結魔法――! 無詠唱でできる中級クラスの魔法だ!

 ついでに、アイアンナイトの右腕まで、こおらせたわ!


「エクスプロジオン!」


 私は魔法を唱えた。エクスプロジオンは――「爆発」の意味である。


 ボゴオオッ


 効果抜群! アイアンナイトの右腕が粉々になり、氷のクズとなった。


「うおおおっ……」

「すげえぞ、あのねーちゃん!」


 野次馬たちが歓声を上げる。


 右腕のないアイアンナイトは、動かなくなった。よろいの中は何もない。がらんどうだ。


「やりますなあ」


 そんな甲高い男の声が、レストランの屋根の上からした。


 魔術師のような肌の青白い男が、屋根の上に立っている。


「……魔物使いか! あなたがアイアンナイトをあやつっていたのね」


 私はピンときて言った。


「その通りですよ! 私は魔物使いルゲルフ!」


 口にはきばが生えている。魔物使いと言っているが、吸血鬼の系統の魔物だろう。

 

「いただきましたよぉっ!」


 ルゲルフは気持ち悪い声で叫んだ。


「あなた方の乗っていた、飛空艇ひくうていのツーオイ石から、膨大ぼうだいな量の魔力を吸い取らせていただきました!」


 ルゲルフはそう叫び、杖をかかげた。杖の先は光り、物凄い魔力を帯びている。本当に飛空艇ひくうていの動力石から、魔力を吸い取っていたというのか!


「そおおおれっ! エア・ウラガーノ!」


 ルゲルフは杖を振りかざした。やばい!


 ドオオオン


 地面に大穴が空いた。空気圧だ。私は一瞬で左にかわしたが、つ、つぶされるところだった……!


「まだまだですよ!」


 ルゲルフは大きな火の球を、杖から放った。しかし――ここだ!


 私はすぐさま、屋根の上に跳び上がり、ルゲルフに接近! 彼の胴体に、自分の手を近づけた。


「な、何だと! す、素早い!」

「蒸発――エバポラシオン!」


 バッシュウウッ


 ルゲルフの胴体が溶け出した。彼の脇の辺りから、湯気が立ち昇る。私は魔法によって、ルゲルフの肉体を熱で蒸発させているのだ。


「な、何だと! 私の体を蒸発させるとはああっ!」

「グラビティ・ネブリナ!」


 ミシミシミシッ


 ルゲルフの体が、私の重力魔法によってきしんでいく。


「ぎゃああああっ!」


 彼の顔がゆがみ、悪魔の形相になり――。


 バシュンッ


 ルゲルフの全身は消滅し、一瞬で大量の宝石に変化した。


「これにて、討伐とうばつ完了! 魔物の魂よ、霊の世界に帰りなさい!」


 私はルゲルフを倒した。しかし!


 ゴオオオッ


 その時だ。すさまじい音を立て、おのが回転しながら、飛んできた!


 地上のアイアンナイトが生きていたのだ。残った左手で、こおったおのを投げてきた!


 しかも、私を目がけて? こ、このままでは、直撃する!


(や、やばい!)


 これ……当たったら……死ぬ!


 「でやああああっ!」


 その瞬間!


 屋根の上にいた私の後ろから、誰かが飛びだした。そして、屋根から飛んだ! 男性だ! いや、少年? 17、8歳くらいの少年だ!


 ガイン!


 彼は自分の持った剣で、おのを弾き飛ばした!


 スタッ


 そして地面に降り立ち、そのまま剣をアイアンナイトに向ける。


「ギッ」

 

 アイアンナイトはおのを振ろうと左腕を動かす。が、そのおのは、すでに向こうの地面に突き刺さっている。


 少年は、アイアンナイトの胴に向かい、剣をはらった。


 ガッシャアアーン


 アイアンナイトの胴体を、剣で一刀両断!


 バシュンッ


 アイアンナイトは、宝石に変化してしまった。少年は、アイアンナイトを退治したのだ。


(す、すごいわ! だ、誰?)


 私は地面に降り立った。そして、私を助けてくれた少年を見た。


 少年は、私に近づいてきた。黒いシャツ、黒いズボンを穿いている。


「お前さ、バカだなー」


(な、なんですってえええ?)


 しょ、初対面の同年代の男子に、いきなりバカ呼ばわりされた!


「お前、魔法使いか何かだろ? あんなおのくらい、よけらんねーのかよ」


 少年はそう言って、剣を背中のさやにしまった。


 し、失礼すぎる……! こ、こいつ、誰……?


 っていうか、私は魔法使いじゃない! 元聖女なんですけど!

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