第10話 これは運命? ナギトと再会

 私はシャルロ王国の勇者、聖女養成学校──「スコラ・シャルロ」に編入した。


 その学校の廊下で、ぶつかった男子は……!

「本当にいってぇなあ! ったく、誰だよ!」

「私だって痛いわよ!」


 私は廊下に尻もちをつきながら、声を上げた。もう、その男子がナギトだと分かっていた。


 ナギトは私を見て、わめいた。ナギトはまだ、私だと気付いていないらしい。


「何だ、こいつ! 思いっきりぶつかってきておいて」

「あなたこそ! ナギト!」

「おい、あやまれっつーんだよ! ……って、あれ? 俺の名前を知ってるのか?」


 私もナギトが目の前にいることに驚いていたが、ナギトも目を丸くしている。


「ミレイア? 何で、こんなところにいるんだ?」


 私だってあわてている。


「そ、それはこっちのセリフ。ナギトこそ、なんで、スコラ・シャルロにいるの?」

「オレが、スコラ・シャルロの生徒だからに決まってんだろ。ええ? ……ってことは、お前、ここに編入したのか? 本当かよ!」


 廊下にいた生徒たちも、噂をし始めた。


「ミレイアって、ナギト君と知り合いなの?」


 すると、ジェニファーも騒ぎを聞きつけ、教室から廊下に出てきた。

 ナギトを見て、目を丸くしている。


「まさか! この男の子、グリンマゼル団の子息でしょう? 新聞で見たことがあるわ。ミレイア、あなた、何でグリンマゼル団と知り合いなのよ?」

「ジェニファー? べ、別に、飛空艇ひくうていで一緒になっただけだよ」


 私はあわててジェニファーに言った。しかし、ジェニファーの興奮はおさまらない。


「グリンマゼル団といえば、エクセン王国の国家予算よりも、お金を持っているって有名よ! 何よ、ずるいわね!」

「あのね、ナギトとは知り合ったばっかりだし」

「くやしい! 王子のレドリーは最近冷たいし」


 ジェニファーはブツブツ言っている。しかしナギトは構わず、私を助け起こしてくれた。周囲の女子からの悲鳴があがる。


「あ~! ミレイアがグリンマゼルのご子息と手をつないだわ!」


 ナギトは騒いでいる女子たちをジロリと見やり、また私に言った。


「ミレイア、お前とは何かえんがありそうだな。じゃーな」


 ナギトはさっさと歩いて行ってしまった。


「キーッ」


 ジェニファーは猿のように、地団駄じたんだんで、くやしがっている。


「『お前』だって! なんでそんなに親しげなのよ!」


 ジェニファーは声を上げた。


「何かムカついたわ! 勝負よ、ミレイア!」

「しょ、勝負って?」


 私はぽかんとして、ジェニファーを見た。ジェニファーは叫んだ。


「あんたも、『スコラ・シャルロ魔法競技会』に出場なさい!」

「ええ?」


 スコラ・シャルロ魔法競技会とは、この学校の、聖女を目指す生徒たちが出場する、術や魔法を使った競技会らしい。


「私と勝負よ! どっちが優れた人間なのか、決着をつけてやる~!」


 ジェニファーは一方的に騒いで、取り巻きたちと一緒に教室に戻ってしまった。


 するとその時……。


『ミレイア・ミレスタさん。ミレイア・ミレスタさん。至急、校長室までおこし下さい』


 魔導拡声器まどうかくせいきで放送がかかった。な、何なのよ、もう……。



 私が職員室の奥の、校長室まで行くと、そこには30代後半くらいのせた美しい女性が、客用ソファに座っていた。クッキーをポリポリ食べている。


「ほこにふわって(そこに座って)」


 女性……おそらく校長は、自分の前のソファを指差した。


「えーっと……このスコラ・シャルロの校長先生ですか?」

「そうでふよ(そうですよ)」


 校長先生は紅茶を飲んで一息つくと、ニコッと笑った。


「ようこそ、エクセン王国の聖女、ミレイアさん!」

「ええっ?」


 私は驚いた。私がエクセン王国の出身であることは、履歴書や手続き書に書いた。しかし、聖女であることは書いていないはずだ。

 エクセン王国は無名で小国だし、聖女の名前など、あまり知られていないはずだ。


 すると、校長先生は笑顔をたやさず、言った。


「だって、アルバナーク婆様の弟子でしょ。私もアルバナーク婆様の弟子よ」

「ええっ? そうなんですか?」


 スコラ・シャルロの校長は、私の師匠、アルバナーク婆の弟子だったらしい。


 校長は言った。


「私の名前は、ミランダ・マデリーンです。よろしく」

「え、はあ……。それで、何のご用でしょうか?」

「ミレイア、あなた、スコラ・シャルロの魔法競技会に出場なさい」

「ええええっ?」


 ジェニファーとおんなじことを言ってる! 私は人と競うことが苦手で、好きじゃない。


「そういうのは、ちょっと苦手です」

「ミレイア、アルバナーク婆様の一番の教えは、何でしたか?」

「……『常に向上せよ』です」

「分かっているじゃないの。だったら、魔法競技会に出て、自分を高めなさい」

「でも……」

「ミレイア、あなた、『やみ堕天使だてんし』をたのではないかしら?」


 はっ……。そう、私はた。確か、エクセン王国を出る時、不気味な、彫像のような、化け物のような謎の存在をた!


「あ、あの存在を、マデリーン先生もたのですか?」

「ええ、私もていますよ。この世界は近いうち、やみ堕天使だてんしひきいる、魔物たちとの大戦争になるでしょう」

「そ、そんな!」


 や、やみ堕天使だてんしと魔物との大戦争!


「ミレイア、あなたはこの学校の魔法競技会に出場なさい。世界に危機がおとずれるかもしれません。その時に備え、自分を高めるのです」

「は、はあ……どうしよう」


 私は、腕組みした。


 この世界に危機……? 


 だとしたら、私は強くならなければいけない……!

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