第2話 成長
美津子は母になって、自分の子が周りの子供より少しぼんやりした性格なのを心配していた。あまりぎゃあぎゃあ泣かないし、夜泣きが酷くて睡眠不足だとこぼしているママ友に比べて本当に手がかからない子供なのだ。むしろ親の手を煩わせないように気を使っているようにさえ感じて不安になる事もある。
(子供ってこんな感じだったかしら)
そんな美津子に旦那の誠は
『やっと遅れて来てくれた僕達の光輝だよ。神経質になりすぎるのは良くないぞ。ママの事を愛しているに決まっているよ』そう言っておでこにキスをした。
『そうよね。考え過ぎたわ。私達の子供ですもの。優しくて大人しい性格なのね』
そんな事を言っていた時期もあるけれど、幼稚園に入って、わんぱくで元気に飛び跳ねている様子を見ると考え過ぎだったと安心した。
ある日光輝が
『ママ、合気道を習いに行きたい』とおねだりしてきて驚いた。
『あら、野球とかサッカーじゃないの?』
『うん。合気道が良いんだ。キッズクラスがあるって教えてもらったんだ』
『へえ、一緒に習いたいお友達がいるの?』
『あのね、僕はヒーローになりたいんだ。強くなって人を泣かせる悪い奴らと戦うんだ』
(ゲームとかでも負けるの嫌いだものね。分かる気がするわ)
『分かったわ。パパに相談してみるね』
(普段大人しい子供だと思っていたけど、悪い奴らを倒すヒーローになりたいなんて可愛いわね。誠が帰って来たら早速相談してみよう)
『貴方今日ね、光輝が合気道を習いたいって言って来たのよ!』
『へえ〜、野球とかサッカーじゃなくて?』
『そうなのよ。私も聞き返しちゃった。そうしたらね、光輝は悪をやっつけるヒーローになりたいんだって!可愛いでしょう。』
『あぁ、そうだな。ヒーローかぁ。男のロマンだよな〜』
『全く何をニヤニヤしているのよ。貴方もヒーローになりたかったの?』
『そりゃあ、男に生まれたら誰でも一度は憧れるさ!』
『ふ〜んそうなの?じゃあ、光輝の夢を叶えさせてあげましょうか?良い?』
『そうだな。身体を鍛える事は悪くないし、合気道は呼吸法と心身の錬成を図る武術で、相手を傷つけるような野蛮な格闘技じゃないから』
『あら貴方、合気道の事詳しいわね。習った事があるの?』
『まぁちょっとかじったぐらいだけどね。光輝が習い始めたら僕も一緒にまた始めようかな』
『パパ、素敵。惚れ直しちゃう〜』
抱きつく二人のラブラブな様子を陰からそっと見つめる光輝の姿。
(あ〜あ、こんなに仲が良いとすぐ弟か妹ができちゃうかもね)とは美沙の心情である。
光輝の中に居候している美沙は、ようやく幼稚園児にまで成長した光輝をさらに鍛えるつもりである。ぼんやりしているように見えて、実は色々と策を練っていたのだ。
パソコンで情報を得ようにも、身体が小さ過ぎて使えなかった。だがようやく幼稚園児になってまだ辿々しいが、頑張れば手を思うように動かせる。しかしこれがかなりの重労働なのだ。体力がなくて、すぐうたた寝してしまう。そこでもう少し身体を鍛えたいと思った。心技体の合気道は精神の鍛錬にもなるし、柔軟な動きで女・子供でも相手の気を使って投げ飛ばす事ができると言う。これを習わない手はない!その為にはママを懐柔しなくてはならない。そこで、目一杯可愛らしくおねだりしてみる作戦に出たと言う訳だ。どうやら狙いは成功だ。
これで合気道を習いに行く事ができそうである。美沙は私も合気道を習っておけば良かったのにと、今更ながら後悔している。だからこの子、光輝には『後悔先に立たず』の信念で育てあげ、良い男に育って欲しいと切に思っているのだった。
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