サイレント・ムーン
四ノ宮麗華
第1話 産まれる❣️
(うん?ここはどこ?なんだかあったかくて気持ち良い。ふわふわしていてこんな快適なベッドは私のじゃないみたい)そこで目を開けて起き上がろうとしたら、身体が全く動かない。しかも真っ暗で何も見えない!鼓動が早くなってパニックになった。動かせる手や足をパタパタとしてみる。
たったそれだけ動いただけで、急激な睡魔に襲われた。それからしばらくはうつらうつらと寝ては覚めて、また寝てしまうを繰り返した。悪い奴らに捕まって監禁されているのだろうか?薬漬けにされて意識が朦朧としているのかと不安に襲われた。もう全てがどうでも良い事に思えてきたある日、突然地面が振動し始めた。最初はゆっくりとした波が段々と力強くなって私の身体を押し流して行く。何が起こっているのだろうか?諦めてその流れに身を任せたら、目の前に明かりが見えてきた。そして突然スポッと明るい光の中へと飛び出した。すると誰かに両手でお姫様抱っこされた。
今まで水中で呼吸していたのに、急に地上に押し出されたせいで呼吸が苦しくなった。すると突然背中をぽんぽんと叩かれて、『ちょっと何するのよ!』と怒鳴ったつもりが大きな鳴き声になった。
思いっきり泣いたら息ができた(なんて空気が美味しいのだろう)とちょっぴり感動した。
『元気な男の子ですよ』と声が聞こえてきて、びっくりする。(誰の事かしら)
『あらぁ可愛い男の子ねぇ。私がママよ』
目がよく見えないけど、どうやらこの女性のお腹から産まれたらしい。しかも男の子として。
考えるのも疲れてウトウトしていると美味しそうな匂いがしてきた。その匂いに誘われて差し出された突起物に夢中で吸い付い付くと、甘い蜜のような液体が喉を通り身体に染み渡ってお腹が満たされてくる。
お腹がいっぱいになると背中をぽんぽんとされてゲップが出た。腕の中に包まれると不安はない。優しく抱いてくれる人の心臓の音が耳に心地良く響き、再び瞼が重くなったきた。
『こんにちは、私の赤ちゃん。私があなたのママよ』女性が優しく語りかけてくる。
(なぜ私が赤ちゃんに戻ったのか)混乱して頭が追いつかない。足をバタバタさせてむずがるしか出来なかった。
『あらあら元気があって嬉しいわぁ』と背中を優しくぽんぽんされて、瞼がまた重くなる。
毎日お乳を飲んでゲップをして寝る。この繰り返しで1日1日が過ぎていくようだ。本当に赤ん坊は寝るのが仕事なんだとつくづく思う。
少しして少し目が見えるようになってきた。目の前にいるのがパパとママ。パパは赤ん坊の名前を嬉しそうに発表してくれた。
『僕が君のパパだよ!うちに来てくれてありがとう。君の名前は光り輝く子と言う意味で光輝。谷村光輝です♪元気な男の子で嬉しいよ』
(え〜、私女子高生だったんですけど?何かの冗談だったら良いのだけど)これが現実なのかな。この運命を受け入れるべきなのか。複雑な心境の美沙である。
『ほらパパ、光輝も喜んでいるわ。きっと名前を気に入ってくれたのね』
『そうだなぁ、こいつ女泣かせのイケメンになるかもな』
(いやいやそれ完全親バカ発言だから!私には神城美沙と言う名前で高校生だった記憶があるけど。こうなったと言う事は多分美沙は死んだのだろうなぁ。どうして死んだのかと言う肝心な記憶がない。これはおいおい確かめていくしかない問題よね)と一人頷いていると、その時になってこの身体の中にもう一人いる事に気が付いた。そうこの子がこの身体の本来の持ち主、光輝君なのね。彼はまだ生まれたばかりで、本当の赤ちゃん。初々しい存在。私に気が付いて驚きでびくびくしている。当然彼の身体をシャアする事になるのだから、ちゃんと仲良くして面倒を見てあげようと美沙は心に誓った。
まぁとりあえず、もう少し身体を成長させない事には動きが取れない。先ずはしっかり食べて、栄養を吸収しなければならない。もちろん光輝の心も身体も成長させないとお互いに上手く共存できないからね。ベビーシッターをやった事はないけれど、女たるもの成せばなるだ!
今の状態ではいずれにせよ全くなす術なしだもん。長期戦を覚悟しつつ、しばらくは飲んじゃ寝する生活を謳歌するとしましょうか。
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