第11話「2062/2/14[救世主達の隠れ里・近郊]」

 シャ、ア……


 強い夕陽の中、彼がじっと見つめる、この隠れ家。


――やれやれ――


 いや、隠れ家というと、何だかのどかな印象を与えるが、実際の所は。


――……俺は、な――


 スラム街、怪異との聖戦を生き延びた後に、その約十年後に。


――言い訳を、していたのかもな――


 かなりの規模である氷隕石が落下し、それによる地球規模での、季候変動が二度目の「聖戦」の開始。


――ここは、忌むべき場所――


 それの、終末を呼ぶ「ラッパの音」であったのが、この場所だ。


――人類にも、そして――


 そして、この場所は。


――私の、私的な事にも――


 彼、獅子王が。


――そう、私的な事、妻になるかもしれなかった、彼女の墓――


 全てを、失った場所でもある。


――……あれは、果たして――


 細かい年月など、すでに忘れている。


――彼女の死は、果たして現実だったのだろうか?――


 もはや、彼には恋人を殺した記憶すら、夢現である。


「……あの、王?」

「なんだ?」


 しかし。


「いつから、そんな懐古主義に?」

「……フフ」


 と、この部下が茶化すのも無理はない事を。


「……ユーモアだよ、君」


 獅子王は、行っている。


――カグツチ・コピー、私の過去――


 まさに、今現代の戦いにおいては無用の長物。


「たまには、馬鹿をやらないと部下はついてこないってな?」

「……はあ」


 それを鞘に納めたまま、王は愛銃とは別に、腰から下げている。


「……失礼ながら、王」

「言うなよ?」

「何も言ってませんが?」

「解るさ」

「……」


 彼、獅子王の腹心は、全てとは言わないが、彼が「オダギリ」であった時の事を、ほとんど知っている。


――無論、な――


 そう、当然「新宮神楽」の最期の事も。


 サァ、ア……


――珍しいな――


 ここまで、夕陽が、その橙色の光がハッキリと、見れる日は。


――普段は、死の雲に覆われている季節なのに、な――


 その光に当てられたか、どうか、この独裁者の顔、彼の老いた顔に。


――しかし、な?――


 僅かな、感傷の色が顕れる。


「この夕陽の光、どこかで……?」

「獅子王」

「……ン、おお何だ?」


 だが、おずおずと声を掛けてきた側近へ向けた、その顔は。


「……御気を、つけて」

「……何だよ?」


 常の、獅子王の顔。


「柄にもないぞ、君?」

「連中のリーダーを務める位の能力者です、その力をあなどるのは……」

「……ム」


 確かに異能者「救世主達」に対しては、ほぼ無敵の獅子王の能力、ではある。


――……まあ、しかし――


 この側近、片腕の彼のように、通用しない相手も僅かには、いる。


――それに、してもな――


 獅子王、彼の頭脳をもってしても。


――この、チャラは――


 なぜ、この彼が自分にここまで、忠実に仕えてくれるか、その理由は解らない。


――私のやり方を、知らない訳ではあるまいに――


 今まで、何度身内の「粛清」を行ったか、それを彼が知らないはずは。


――ないのに、な――


 そう思うと、この昔からの「友人」である、彼の老いた、この。


「……」


 シワに、満ちた。


「……王、何か?」

「……いや、しかし」


 皺だらけの、老人の顔を見つめる内に。


「しかし、な」

「何か、王?」

「……お前と私、お互いに」


 そこまで言って、獅子王は自分の乾いた唇に、すっと。


 ジュ……


 タバコの、安煙草の吸い先を付けて、軽く。


「長く、生きれたもんだな?」

「……そうですね」


 微笑を浮かべた、浮かべてみせたその時、この腹心の顔にも、僅かに。


「長い、人生でッス、王」


 昔の「チャラ」い、雰囲気が少しだけ、戻った。


「……ああ、そうだな」


 気がした。



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