第5話「20xx/xx/xx[xxx]」

 もはや、その「怪異」には、彼女の面影は、ない。


 ジュグウ、ウゥ……


 彼女の黒髪は強酸で燃え、身体は毒々しい、紫色に染まり、溶け。


――……クン――


 ただ、その唇と瞳、それだけが。


――……君――


 僕に、訴える。


「……」


 明確な言葉は解らない、だが。


――クシュ、ルゥ……――


 この「彼女」の、気持ちは、解る。


「……新宮さん」


 この最後の任務、これが終わったら。


――結婚しよう、小田切君……――

――……ああ――


 怪異共との「聖戦」は、まもなく終わりを告げる。


「……僕たちは、勝ったんだよな、神楽?」


 しかし、その前に、僕がこの聖戦に参加している理由、それが。


「そうだよね、新宮さん、神楽ちゃん?」


 終わりを。


「……そうだと、言ってよ」


 告げた。


「……神楽」


 そして、僕は、この手に持った銃を。


……チャ、カ


 断末魔の怪異、二人で追い詰めた、実に、とるに足らない強さの怪異に、取り込まれた、取り込まれてしまった、彼女に。


……ゴァア!!


 恋人、に。


「……さようなら、神楽」


 叩きつけた。




////////////////




 何も、無くなった所に、佇む。


「……」


 カグツチ・コピー、炎の刀。


――彼女の、心か……――


 それは、錆び付き、かつての鮮やかな朱、その色合いを失った。


――まるで、今、彼女と生死を共にしたかのような――


 彼女の「新宮神楽」の愛刀。


――全て、溶けて、消えた、彼女の、最期の――


 何も、形見も何もない、全てが消え失せた彼女の、僕の恋人が。


「……神楽」


 唯一、残した品物。


「……」


 グゥ……


 それを、僕はそっと、両手で抱き締める。


――まあ、結婚と言っても、ね――

――……ん?――


 想い出と、共に。


――出来ちゃった婚、だけど――

――……ええっ!?――


 ああ、そうか。


「……僕は」


 自分の、将来の奥さんと。


「……そして」


 未来を、全てこの手で、終わらせたんだ……


 トゥ……


 虚無に、ただ落ちる。


 トゥ、ウン……


 僕の、涙。

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