第4話「2023/2/14[夕陽のチョコレート]」

「……あの、小田切君?」


 窓からの、強い夕焼けに染まった教室で。


――何がバレンタインだー!!――


 と、呪詛を叩きつけながら、一人寂しく、携帯ゲームのレベル上げをしていた。


――レベル、アップが先決!!――


 僕、だったが。


「……あの、小田切君?」


 その涼やかな、彼女の声で。


「あっ、に、新宮さん!?」

「……今、いいかしら?」

「あっ、うん……」


 細く、気遣うような声で、我に返る。


「……新宮さん、何か用?」

「……」


 教室の窓から。


 カァ、カァア……


 カラスの声と共に注ぐ、強い夕陽の、オレンジ色の光。


「……いえ、その」


 その、教室一面の「だいたい」に。


 サァア……


 彼女の黒髪が、鮮やかになびき、そして。


――……ゴッ――


 そして、彼女の。


――……ゴクゥ!!――


 すでに女性らしさを、胸や腰に大きく発達させている、制服に包まれた、彼女の身体、それが。


――……ドゥ――


 それらが、斜陽の輝きにより際立ち、僕の胸が、心臓が。


――……ドクゥ、ン!!――


 高まるほど、艶かしい。


「……小田切くん?」

「はっ、はひ!?」


 もしかして、今僕が、彼女のスカートから伸びる。


「……私の顔を見て?」

「は、ハイッ!?」


 スラリとした、彼女の「おみ脚」に、ハッキリ言ってしまえば


 スゥ、ウ……


 白く、そして明るく夕陽に輝く「生足」に目が行っていたこと、そして彼女の、新宮さんの、そのかたちよく膨らんだ。


 ムッ、ウ……


 その、あれを。


「……私の、胸や脚じゃなくて」

「あっ、あう!?」


 そこを見ていた、直視していた事に気付かれていた、ようだ……


――……だけど――


 それとは別の話として、どうも彼女は、人に。


――僕だって、あまり人の事は言えないが――


 いわゆる「陰キャ」の僕から見ても、彼女は他人との。


「……そう、全く」


 人との、付き合いがない。


――転校してきて、もうすぐ1月にもなるのにな――


 何故かは解らないが、彼女は女子の輪に、加わろうとしない、そして。


「……当然、男子にも」


 転校当初から、彼女は男子に人気は、ある。


――あの新宮ちゃん、スゲー可愛いよな!?――


 その外見で得をしている、だが。


――ああ、だけどサァ?――


 しかし、さすがにその愛想の無さは、可愛い子には目がない、高校生男子でも。


――あまり面白くネェ、つまんねぇ女じゃね?――

――まぁな――

――無口で、何考えてるか、解んなくて、さァ?――


 興ざめする位、他人との付き合いがない。


――……もしかして――


 同級生の中では、学校の中では、隣の席である僕が一番、彼女と会話を、しているのかもしれない。


「……これ、小田切くん」


 と、言って。


「……?」


 切り出して、差し出された彼女の手に光るのは。


「……!!」


 こ、これは!?


「……迷惑、かしら?」

「い、いやそんな事は!!」

「……ほら、いつも」


 と、彼女の平常運行、表情という物が無いまま、新宮さんはその細く。


「小田切君には、いつもお世話になっているから」

「そ、そんな……!!」


 スラっとした指先に、手のひらにチョコレートを乗せている。


「……あっ!?」


 そして、周囲が。


 ザゥア……!!


 完全なオレンジ、橙色の光のみ。


「……あの、新宮さん?」


 それだけの、僕と彼女の他には何も無い、陽光のみの空間の中で、彼女の頭が。


 スゥ……


 軽く、下げられる。




////////////////





「……僕が」


 彼女が立ち去った、やや日も沈み、暗さが増した教室の中で。


「初めて、もらったチョコ!!」


 と、一人こぶしを上げ、喝采を放つ、端から見ると、大層不気味は光景。


「……でも、まあ」


 当然、これは義理チョコだけどね。


「……えーと、二百ゴジュウ円の、板チョコ」


 とはいえ、値札シールくらいは、外して欲しかった……


「……でも」


 何か、彼女は僕に、少しは好感を持っている、のかもしれない。


「……そうでなければ」


 で、なければ義理とはいえ、渡さないだろう?


「……だけど」


 非モテの、陰キャの僕の!!


「だけど、さぁ!?」


 僕の、青春到来!!!???


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