深夜の散歩で見つけた同類

ゆる弥

深夜の散歩で見つけた同類

 今日はなんか上手くいかない日だったなぁ。

 あっちの現場も上手く収まらなけりゃ。

 こっちも細々なんかあるし。


「はぁぁぁぁぁ」


 晩酌してた俺は急に散歩に出たくなった。


 酔い醒ましにもいいし、散歩するか。

 子供と妻が寝静まった家で唯一起きてる俺。

 玄関に行き、なるべく音を鳴らさないように玄関を開け閉めする。


 鍵を静かにかけて出る。


「ふぅぅぅぅ。なんか夜の空気って良いよなぁ」


 星空を見上げながら歩き出す。

 少し歩くと公園だ。


 こんな時間なのに、ベンチに座ってる男性がいる。

 なんだか不気味だなぁ。

 パチッと目が合ってしまった。


「こ、こんばんは」


「あっ、こんばんは。座ります?」


「あっ、はい」


 とりあえず、先に挨拶したが、なんだか気まずい雰囲気になってしまう。


「あの、深夜にどうして公園に?」


 先に聞かれてしまった。

 どう答えたもんか。


「実は、仕事が上手くいかなくて考え込んでたら、散歩したくなって……」


「実は、私もなんですよ」


「奇遇ですね! まぁ、そんな事もないと深夜に公園のベンチに居ませんよね」


 俺は少し明るく言った。

 ここで暗くなっては話が進まないと思ったからだ。


「ははは。ですね……私はなどうにも上手くいかなくて。仕事は辞めれないし、もう死のうかななんて思ったりして……」


 俺もそれを考えたことある。


「家族は……?」


「妻と子供が一人」


「ウチと一緒ですね」


 同じだった。

 なんかそれだけでもう通じあった気がした。

 夜の心地よい木々のざわめきのなか、二人で子供のこと、妻の事を話した。


 なんか分かり合えた。


「仕事、どうしたら上手く行くんでしょうね……」


 それは辛いよなぁ。

 俺も辞めれないのはそれが理由。

 この歳になると次が見つかりづらい。


「二人で考えましょう! 俺は、細々したミスがつもり積もって苦しくなるんです」


「なるほど、私はミスはないんですが、言われたことを忘れてしまうんです」


 俺は言われたことを忘れたことは無いな。

 なんでだろう?

 振り返ってみる。

 

 俺は自分の付箋を持ち歩いてる。

 そして、その日書いたのは会社にもどって机に貼る。

 そのやり方を話してみる。


「それいいですね! やってみます!」


「私の細かいミスが無いのは、一つ一つをキチッとチェックしているからかなと思います。あとは、人にも見てもらうとか」


 それは盲点だった。

 二人で現場を見ればいいのか。

 サブで補助でもいい。


「それいいです!」


「なんか私、元気になってきました」


「俺も! よく寝れそうです!」


 二人で握手してお互いを称える。

 いい出会いだった。

 

 それから俺達はたまにする夜の散歩が癖になったのだった。

 その後どうなったかは別のお話。

 

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