夜に現る【星降る世界の龍仙師番外】

木曜日御前

侵入ダメ絶対


「うーん、寝れない!」

 寝れない辛いさで、溢れる涙を寝巻きの袖で拭う。すでに何時間こうしてるのだろう。

 少し歩けば気が紛れるだろうか。僕はそれに縋る気持ちで、自室から天守閣へと向かう。


 皆の協力で仙力の封印を解除したが、その際一緒に感情の封印も解除された。そのせいで、少しのことでも自分の感情に振り回されてしまう。

 頭を冷やそう、そう思った僕は風通りが一番良い天守閣へと向かった。


 風が吹き抜け涼しい、天守閣。見渡せる夜空も一等美しい。天守閣を囲う柵に寄りかかり、楽な姿勢で空を眺める。きらきらと光る星は、神様の姿だと習った気がした。

 僕が懐かしい記憶を辿っていると、背中に誰かの布がふわりと擦れる感触があった。


「ひっ!」

 僕が短く悲鳴を上げて、慌てて隣を見ると、セイが何食わぬ顔をして立っていた。


「星には名前がある、詳しくは知らないがな」

「そうなんだ、って、まず驚かせないでよ」

「このくらいで驚くな、って泣いてるのか」

「ぅゔ〜っ」


 ぼろぼろと涙を溢し始める僕に、セイは僕の涙を親指で拭う。そして、その親指を舐めた。


「ひゃっ!」

「しょっぱいな、って、顔を赤いぞ」

「なななな、涙を舐めるなんて」

「貴重な水分だからな」


 相変わらず、セイの隣りにいると調子が狂う。顔が火照ったまま、むすっとした顔でセイを睨んだ。


「そもそも、ここは龍仙師以外入れないはずなんだけど」

「気にするな」


 セイは僕の頭を撫でる。優しい心地よさに、僕はうとうとしてくる。


「リュウユウ、今度空の旅をしよう、サーカスの時みたいに」

「僕が連れてくよ、龍に乗って」

「ああ、楽しみにしている」


 セイは意地悪そうな笑みから柔らかな笑みへと変える。僕はその笑みを見ながら、遂に眠ってしまった。

 目が覚めたときには、自室の布団の上。セイが運んだのだろう。


「やってしまった」

 僕は恥ずかしさで顔を赤くし、頭を抱えたまま、涙を零した。

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