深夜の散歩で起きた出来事
藤泉都理
深夜の散歩で起きた出来事
深夜の散歩で起きた出来事だった。
春の訪れを知らせるように、その時間帯でもそれほど寒くはない気温の中。
友人の吸血鬼と家から三十分ほどして辿り着く、海沿いの公園へと歩を進めていた。
満月。
ぽつぽつと設置している街路灯、小さな店、自販機。
時折通り過ぎる自転車、バイク、自動車。
時に強烈な、時に頼りない明かりの下で、声を潜めながらまず話題に上がるのは、何のアイスを食べるかということ。
公園には、ジュース、駄菓子、そして、アイスの自販機がそれぞれ一か所に、傘型の木の屋根の下に置かれていた。
強い風が吹く昼間と打って変わって、凪いでいた。
満月が、星々が吸い取っているのだろうか。
「なあ」
「何だい?」
友人が笑うと、鋭い牙が見えた。
血が嫌いなんだ。
深夜の散歩で起きた出来事だった。
初めて友人と出会ったのは。
次の日は休みだし支障はないと、家族が寝静まる中、ひっそりと家を出た。
最初はゆったり歩いていたのだ。
けれどだんだん、走りたくなった。
身体の中の空気を一気に入れ替えるように激しく。
五分だけ。
身体が悲鳴を上げたので、あとはよぼよぼ歩き続けた。
帰って身体を休めたいとは思わなかった。
この静かで澄んだ空気をもっともっと身体に取り入れたかった。
そして、公園に辿り着いて、友人に出会った。
血を飲みたくないと泣いている彼女に出会った。
「こんなに美味しんだからアイスが求める食物だったらよかったんだけどね」
「アイスだけだったら腹を痛めるんじゃないか?」
「まあ確かに」
自販機の明かりに照らされて、ひっそりと笑う。
血が嫌いだ、血は飲みたくないと拒む彼女の身体はどんどん頼りなく見えてきている。
けれど、本来透明化するはずなのにそれはないので、身体が変化してきていると友人は前向きだ。
「また散歩に行こうな」
「ああ」
友人は苺アイスを、私は抹茶アイスを食べた。
冷たいはずなのに、とても温かかった。
深夜の散歩で起きた出来事 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます