夜遊びとカラオケと深夜の散歩

日諸 畔(ひもろ ほとり)

唐突な提案

「夜遊びをしよう」


 俺は彼女へ、唐突な提案をした。猫のような可愛らしいつり目が丸くなった。

 金曜日の夜は人を狂わせる。それは俺も例外ではなかった。


「夜遊びって、なにするの?」


 スーツから着替える俺を眺めつつ、彼女は首を傾ける。期待通りの質問に、俺は鼻を鳴らした。


「夕飯食べたらカラオケに行きます」

「おおー、いいねー。初カラオケだねー」


 渾身のドヤ顔に、彼女は手を叩いて応えてくれた。こういうところも、魅力のひとつだと思う。

 俺は張り切って、作り置きのおかずを電子レンジに放り込んだ。できる男は準備がいいのだと、内心自画自賛してみる。


 食事を終え、出かける準備をしていたら思いの外時間が経ってしまった。携帯電話の時計は二十二時を示している。


「さぁ、夜遊びにいくぞー」

「おー」


 真冬の夜、二人は外へと繰り出した。徒歩で行ける範囲にカラオケ屋さんがあってよかった。道中の散歩も立派なデートになる。


 カラオケはもう、常軌を逸した楽しさだった。

 好きなアニメが被っているため、その主題歌で大変に盛り上がりもした。当初は二時間くらいで帰ろうと思っていたが、気付けば三時間を過ぎていた。


「流石に遅いし、そろそろ帰ろうか」

「うん!」


 名残惜しい気持ちもありつつ、料金を払い帰路につく。刺さるような気温だったけど、気持ちと繋いだ手は温かい。


「そうそう、気になってたんだけどね」

「ん?」


 俺はカラオケ中にどうしても気になっていたことを口にした。


「なんであんな古い歌知ってたの?」


 俺が子供の頃見ていたアニメの主題歌を、彼女は一緒に歌ってくれた。どう考えても産まれる前の曲だ。


「前にね、SNSの書き込みを見たんだよ」

「え、俺の?」

「うん、かなり前だけど。それで聞いてみたの」


 彼女の言う日付は、明らかにお付き合いする前だった。


「よく覚えてるね。しかも聞いてみるとか」

「んふふー、その時から気になる人だったのです」


 彼女はずいぶん前から俺に好意を抱いてくれていた。それは知っていた。しかし、これ程だったとは。


「それは、あれだ。ネットストーカーだ」

「うわ、ひどい」


 にっこりと笑う彼女のポニーテールを、軽く撫でた。

 通じるとわかっているからこそ、言える冗談がある。それだけの信頼関係が築けていることを、心から嬉しく思う。


「またカラオケ行こうね」

「うん、ストーカーの力を見るがよい」


 ささやかな夜遊びの帰り道。

 深夜の散歩で起きた出来事は、二人の新しい思い出になった。

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夜遊びとカラオケと深夜の散歩 日諸 畔(ひもろ ほとり) @horihoho

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