その日、〝夜〟は消滅した

雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞

第1話 永き夜よ、来たれ

 たまさか、夜の散歩をしていた者が真っ先に知覚した。

 明るい。

 元より満月ではあったが、世界が昼のような光に満ちている。

 数分後、世界中がパニックへと陥った。


 即ち――人類から〝夜〟が奪われたためである。


 太陽系。

 我々が住む星団に、突如として5つの恒星が出現した。

 そのどれもが煌々と輝き、地球を日光で染め上げる。

 くまなく、二度と夜が生じることなどないように。


 真っ先に問い合わせが殺到したのは天文台だ。

 この状況を予測できなかったのか?

 そもそもあの恒星達はなんなのか?

 彼らは憐れにもその回答を持ち得なかった。


 如何なる観測機器を用いても、そこには陰一つ見つけられなかったからだ。

 ただ肉眼だけが、太陽に近似する存在を認知している。


 地球は大混乱に陥った。

 白夜という現象がある。

 極圏で起きる日の沈まない季節のことで、四ヶ月ほど続く。

 だが、五つの太陽は一年が経っても変わらずそこにあった。


「夜よ来たれ!」


 誰かが叫んだ。

 深刻な悲鳴だった。

 誰もが眠れなくなっていたのだ。


 日照が常にあるため、体内時計がバグを起こし、眠気の発生しない者が世に溢れていた。

 めざといビジネスマンたちは、地下に大量のカプセルホテルを作り仮眠所とすることで莫大な利益を得たが、すぐにパンクして使い物にならなくなった。


 やがて、これがなんらかの〝攻撃〟ではないかと考える学者が現れた。

 外宇宙に存在する超技術をもった文明が、我々に対して侵略行為を仕掛けているのではないかと。

 それが正解だったのか不正解だったのか、誰にも解らない。

 ただ、人類が夜のない生活と苦闘を続けて十年目。


 戦いは、唐突に終わりを告げた。


 現れたときと同様に、突如太陽が消え失せたのだ。

 人々は歓呼に湧いた。

 戻ってきたからだ、夜が。

 けれどすぐに理解することとなる。


 消えたのは――元からあった太陽なのだと。

 かくて、人類は朝を失う。


 永遠の夜が、やってきた――

 

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