仮面、イニシエの秘宝

るつぺる

翳りゆく国

 その仮面は古来より其処に在り。身につけし者へと栄華を授ける。時の王と呼ばれる者は皆、この仮面の呪縛とも云うべき恩恵を賜った結果であったという。


「それを叩き割りました」

「なぜ」

「手が滑ったんです。アッと思った時にはもう地面に当たっていて、取ろうと踏み込んだ足がその上に乗っかってました。あ、叩き割りじゃなくて踏み砕きか」

「あ、やなくて。あなた死にますよ。死罪です」

「そこをなんとか」

「なりません。この時間でさえ猶予が惜しいと大臣は仰せです。既に斬首の手筈も整いました。あとは跳ぶだけなのです」

「はあ」

「やけに落ち着いてますね。我々はそれが知りたい。だからこの場を設けています。あなたは自らの命を投げ捨てるほどの愚行を伴いながら、まるで反省が見えない。わざとでしたか」

「いえ。ですが割れたものは戻らないし死罪と言われれば辛くもありますが、とはいえ覆らないんでしょう。なら仕方ないなと」

「あなた、いや私も王に向かってあなたと言っちゃってるのは不敬も甚だしいかと思いますけれどね。ですがあの仮面には我が国の繁栄、もっと言えば進退がかかっていたわけです。もはやこの国はどうにもなりません。資源は枯渇し民は荒れることにさえ疲れ果て、他国からは援助どころか侵略の対象にもならない滅びを待つだけの国です。ところが此度我らが領土よりアレが出土した。伝説のアレです。いけたかもしれないんです。ワンチャンネコチャン加トちゃんけんちゃん! いけたかもしれなかった。それをあなたね、ご自身の首で正直どうこうできる問題でもないんですよ。あくまでケジメはつけよと大臣は仰ってますが。あなたがあまりにも落ち着いているから私も一発ビンタくらいは食らわしてから逝ってくんねえかなとね煮え繰り返ってますよハラワタが」

「ごめんね」

「もういいです。この国は終わり。溜飲を下げたところで我々も散り果てる運命……あ、わかった。あなた先逃げしようって腹だな!」

「……」

「なんとか言え! どうせ死ぬならさっさとって魂胆なんだろ! 甘んじるな! 生きろカス野郎!」

「でももうこの国は」

「うるせえ! だいたい仮面一枚でどうってことねえだろ! 我々はこうして怒れるんです! 大臣だって禿げたデコスケが沸騰してたでしょ! 沸いた湯でエースコックもワンタンメンですよ! やりましょう! あなたがまだ王なら!」

「ありがとう……泣いてまう」

「泣くな! ハゲを説得するぞ!」

「おい」

「なんじゃいわれィ! 今から大じ」

「誰がハゲワンタンや」

「「あ」」

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仮面、イニシエの秘宝 るつぺる @pefnk

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