綺麗になぁれ♡

夕日ゆうや

おじいちゃんになっても……

 俺、真也しんやは仕事帰りに散歩をするのが日課だった。

 その日も何げない日常を送っていた。

 道ばたで見つけた紙ゴミ。

 道路脇に並べられた缶コーヒー、ジュースのペットボトル。

「この街ってこんなに汚かったのか」

 よくよく見てみると、この街は綺麗ではなかった。

 深夜の散歩に、俺はゴミ袋とトングを持参するようになった。

 会社の同僚が声をかけてくる。

「真也さん。最近、美化活動をしているんだって? すごいね」

「いや。それほどでも」

「うちは地域に根ざす企業を目指しているのだよ。だからその行いはとても素晴らしい」

 いつも不機嫌そうな上司が声をかけてくれる。それも明るい声で。

 なんだか、みんなの顔が明るくなったような気がする。

 そんな日でも俺は帰りに美化活動を続けた。

「たく。こんな空き缶捨てるなよな。危ないだろ」

 空き缶を拾おうとすると、トングとトングがぶつかりあう。

「あ、すみません」

「いえいえ。こちらこそ」

 俺が顔を上げてその女の人を見ると、可愛い顔立ちの人だった。

「もしかして、あなたも清掃を?」

「はい。この街が気に入っているのですが、最近は……」

 たははは、と乾いた笑いを浮かべる女性。

「俺は真也と言います」

「私は美利みりと言います。よろしくお願いします」

 俺は美利と一緒に清掃活動を続けた。

 帰り道にある公園やバス停などを中心に。

 不思議なご縁なのか、美利さんは俺のアパートの近くに住んでいるらしい。

「へぇ。銀行員なんですか」

「そうなんですよ。数字を扱うのが好きで」

「俺はそんなに頭良くないんで毎日、パソコンへのデータ入力ですよ」

 笑い合いながらも、清掃活動を行っていた。

 しばらくして会社一団となって清掃活動をするようになっても、俺と美利さんが結婚しても続いた。

「今日もゴミがないといいね」

「そうだね」

 俺と美利の美化活動の影響か、ゴミはなくなっていた。

 おじいちゃんになっても、その活動は続けていた。

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