深夜の散歩で起きた出来事
惟風
深夜の散歩で起きた出来事
ミッドナイト・シャークだ!
真夜中に現れては人を襲う鮫だ!
夜食を求めてコンビニに向かったのが運の尽きだったか。俺は駐車場の真ん中で震えていた。
店内の人間を食い尽くした真っ黒い鮫は、でかい身体を滑らかに動かして尾ビレで建物を破壊した。そのままこっちに向かってくる。
迫る鮫。
立ち尽くす俺。
目の前に突如出現したモンスターを前に、俺は自分のしょぼくれた人生を嘆くことしかできなかった。走馬灯も見えやしない。何てつまらない生涯だろう。
涙どころか大も小も垂れ流してとっくに観念した俺は、目を閉じた。
その時。
「危ない!」
勢いよく横に突き飛ばされた。続いて轟音と衝撃。
目を開けると、俺が密かに想いを寄せている隣人の橘さんが、ロケットランチャーを構えていた。鮫が煙を上げている。
橘さんが俺の手を引いた。
「逃げましょう!」
促されるまま、路地裏に駆け込んだ。
「貴方はここに隠れていてください」
「そんな、君はどうするんだ?」
「私は戦います、それが、サメハンターの家に生まれた私の使命なんです」
そう言うと、橘さんは現場に取って返した。
待ってくれ。いくら武器があるからって無茶だ。
若きサメハンターを追いかけるが、失禁で貼り付いた下衣が動きを鈍らせる。
「橘さん!」
ロケランを投げ捨てる彼女の姿が視界に入った。弾切れらしい。懐から取り出した拳銃で尚も応戦する橘さんに、俺の声は届かない。
漆黒の鮫が彼女を呑み込もうとした瞬間。
俺の横をすり抜けた大きな影が、黒光りする鮫のどてっ腹に齧り付いた。二体は勢い、コンビニの瓦礫に突っ込んでいく。
巨大なメジロザメだ!
それはたまたまこの辺りを散歩中の鮫だった!
ウォーク・シャークだ!
凶暴な怪物同士の戦いを、俺達は呆然と見つめることしかできなかった。
――これが、パパとママの馴れ初めさ。さ、もう寝なさい。明日の入学式、楽しみにしてるからな。
「嘘だろ……」
深夜の散歩で起きた出来事 惟風 @ifuw
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