深夜の触れ合えないふれあい

@nekobatake

深夜の公園、街並みを見下ろせる場所にて

 ネットでは、深夜の散歩を日課とする人をよく見た。

 しかし、私が深夜徘徊していても、誰とも出会わなかった。

 出会ったのはカオリだけだ。


 どこか特定の地域(都会や繁華街?)でしか行われないのか?

 逆にこの地域でのみ行われていないだけか?


 真実がどうなのかは分からない。

 なので、カオリに訊いてみた。


「そういう人たちって、ネットで目立つだけで、実数は少ないってところじゃないですかねえ」

「あー、確かに、そういう趣味の人がネット活動も活発な気がする」

「ですです。不健全な健全さ、ってわけです」


 カオリのまとめ方は、よく分からなかったが、正しいことを言っているのだろう。

 カオリの着ている制服は名門高校のそれで──やはり、カオリは頭がいい。


「で……おねーさんは、よく深夜散歩してたんですか?」

「私? まさか。カオリと会えるからしてるだけ」


 深夜、高台の公園から街並みを見下ろしている私たちを、大きな月が見下ろしている。

 私たちが一緒にいられるのは、夜の間だけ。

 朝日が登ると、カオリはいなくなってしまう……。

 寂しくなって、隣のカオリの肩を抱き寄せる。

 でも、カオリの体は私の腕をすり抜けるだけ。


「無理ですよ、幽霊なんですから」


 カオリが寂しそうに笑う。


「もっと早く会えてたら、何か変わったかな?」

「少しでも今と違う状況だったら、出会えてないですよ、きっと」


 確かにその通りだ。

 私の活動範囲は、自分の家の近くだけだった。

 あるとき足を伸ばして、今まで行ったことのない公園に行って。

 あの時カオリと出会えてなかったら、もうここには来なかった。

 ……だから、出会えたことが奇跡なんだ。


 それから、いつも通り他愛のないお喋りをして。

 やがて朝日が昇り始めた。

 ああ、カオリの体が薄らんでくる。

 彼女から見た私も同じだろう。


「幽霊同士なら触れ合えてもいいのにね」


 私の言葉に、カオリは笑いながら言った。

 また明日ね、って。

 

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