第18話 エロ侍の切り札
「虎兵衛、何をするつもりなの?」
私は虎兵衛の方を向き、彼を凝視する。彼は伸ばした手を思いっ切り、自分の股間に持って行く。
まさか・・・・。私は、嫌な事を思い出す。
「虎兵衛、こんな時にチンポジを直すつもりなの?」
私は恥ずかしさも忘れて、大きな声でまた要らぬ事を聞いてしまう。虎兵衛は股間に当てた手を、縦や横や斜めに、微調整しながら動かしている。顔が必死だ。そこが余計に最悪だ。
「フハハハ、とうとう頭が可笑しくなって、股間をいじり出したか?股間を触りながら、焼け死んで行くがいい」
ムークは腹を抱えて笑っている。
私は、ここで冷静に考える。虎兵衛と出会うまでの私なら、ただ絶望に打ちひしがれていたに違いない。彼の言っていた、自分の常識を疑うのだ。彼の描いている常識を理解するのだ。
チンポジを直すと、気持ち悪いのが解消される・・・。
気持ち悪いのが解消されると、集中力が増す・・・。
集中力が増すと、強くなる・・・・。
チンポジを直すと、強くなる!
そんなバカな!
私は、自分の出した結論に驚く。そして気が付けば、炎の龍は虎兵衛の目の前まで迫っている。危ない、と思った瞬間!
「来たーっ!イチモツが、ベストポジションに!」
虎兵衛は目をカッと見開き、叫ぶ。
炎の龍が大きく口を開け、虎兵衛に食らい付こうとする。虎兵衛はスッと身体を引き、炎の龍に太刀を浴びせる。炎の龍は真っ二つに斬られ、消滅する。
「へ・・・・・」
ムークは驚きのあまり、身体が固まっている。
「魔法を刀で斬った・・・。あり得ない」
私は無意識に言葉が漏れる。
そうなのだ。魔法という、言わば物理的に存在しないエネルギーの様なモノを、物理的な物体の刀で斬れる訳がないのだ。従来の常識では・・・。
「ふざけるな、魔法を刀で斬っただと。そんなの、そんなの絶対おかしい。嘘だ、これは悪夢だ」
ムークは自分の見たものを疑う様に、一人で呟いている。
「視野が狭いな、魔法使いよ。お主の常識は、拙者の常識ではないのでござるよ」
虎兵衛は、またアゴに手を当て解説する。
「これは科学なのでござる。魔法の理論、性質、成り立ち、その様々な物を分析し、理解したのなら、斬る事はたやすいのでござる」
「バカな!そんな事、出来る訳ない!」
「見ての通り、実際に出来たでござろう。それに今回、ぶっつけ本番で、斬った訳ではないのでござる。先の戦いで、お主に分からぬ様に、実際に斬れるかどうか試していたのでござる。魔法は斬れるという仮説を立て、検証を行ったのでござる。拙者、こう見えても、理系の人間でござるよ」
ムークは完全に言葉を失っている。それ程ショックだったのだろう。目の焦点が合っていない。
「お主も、言うておったでござろう。切り札は最後まで、取って置くのでござるよ」
虎兵衛はムークに向かって、走り出す。ムークはそれを見て、慌てて正気を取り戻す。
「いくら斬れると言っても、この数の炎は防げまい」
ムークは、散弾銃の弾の様な炎の魔法を繰り出す。無数の炎の弾が、虎兵衛を襲う。
「チンポジをベストなポジションに持ってくる事により、肉体の潜在能力を引き出す、それが我が剣の極意。チンポジがベストな所へ来ている今、お主に勝機はござらぬ。死を受け入れるでござる」
虎兵衛は無数の炎の弾を、全て斬り落としながら突進して行く。ムークは近寄らせない様に、様々な魔法を繰り出すが、虎兵衛の勢いは止まらない。
「弓隊よ、何をしている?あの侍を射て!僕ちゃんが危ないのが分からないのか!」
ムークは汗でビショビショになりながら、魔法を放ち続ける。メラーン国軍の弓隊も、一斉に虎兵衛に向けて、矢を放つ。炎の魔法と矢の雨が、虎兵衛に迫る。
しかし、虎兵衛は物凄いスピードで、全ての攻撃を避け、斬り落としている。私は彼の動きが速過ぎて、目が追い付かない。
気が付けば、虎兵衛はあっと言う間に、魔法使いムークの目の前まで迫っていた。私は決着の時が、間近に迫っていたのを実感していた。
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