第17話 強者の攻防
「虎兵衛、ごめん・・・・」
私は虎兵衛に抱き抱えられながら、彼の顔を見て、謝る。
「謝る事はないでござる。拙者はエリール殿の事を、頼りにしているでござるよ」
虎兵衛は前を見て、必死で敵の魔法と、こん棒を避けている。
こんなに自分が情けないと思った事は、初めてだ。私は、何とかこの状況を打開する様に、策を考える。
「虎兵衛。もし、私を守りながらじゃなかったら、あの巨人を倒す事が出来る?」
「・・・・出来るでござるが、一体?」
「どれくらいの時間があれば、倒せる?」
「十秒もあれば、倒せるでござる」
「分かったわ。私は十秒間、敵の攻撃を防ぐのに専念するから、その間に巨人を倒して」
ホントに虎兵衛はあの巨人を倒せるのか、しかも十秒という短時間で、という疑念はあった。しかし、このまま逃げるだけでは、いつかは殺られる。私は、ここで勝負に出る。
「エリール殿、それでは十秒間、時間をもらうでござる」
虎兵衛は抱き抱えていた私を下ろし、再び鞘から刀を抜く。私は、敵の魔法使いの攻撃に対処する為、防御の魔法を発動させる。
「どうした、侍?王女を見捨てるのか?僕ちゃん、王女様に攻撃しちゃうよ」
ムークの炎の欠片の魔法が、私に向かって来る。
私は、敵の心理を読む。敵は私をここで本気で殺しにこない。いや、これないのだ。
何故なら、私は虎兵衛の足かせ。虎兵衛より先に私を殺せば、彼の足止めにはならない。だから、この私に対する魔法は、あくまで威嚇のはずだ。
私は水の盾の魔法を展開する。炎の欠片の魔法が、次々と水の盾にぶつかって来る。いくつかの炎の欠片が防ぎ切れず、水の盾を貫通して来る。その何個かが私の腕と足をかすめる。
その部分が出血し、火傷となっている。私は、腕と足の痛みに耐えながら、虎兵衛を見る。虎兵衛は真っ直ぐ、巨人の方に向かって突っ走る。
巨人は虎兵衛を待ち構え、こん棒を振り下ろす。虎兵衛は巨人のこん棒を交わしながら、刀を振る。こん棒を握っていた巨人の指が、スパッと切り落とされる。
巨人は、指を斬られた痛みで後退する。虎兵衛は巨人の足や胴体を土台にして、巨人の頭の位置まで、ピョンピョンと飛び上がって行く。
巨人は、指を斬られていない反対側の手で、虎兵衛を振り払いに来る。虎兵衛は刀を返し、その巨人の振り払いに来た手首を切り落とす。
巨人はバランスを崩し、地面に尻餅をつく。虎兵衛は刀を振りかぶり、そこへ追撃を入れる。巨人の首が血飛沫を飛び散らせながら、飛んで行く。巨人の胴体はドッと地面に倒れ込み、巨人はバタバタと身体を動かした後、息絶える。
動かなくなった巨人を、虎兵衛が一瞥している所へ、再び炎の玉の魔法が虎兵衛を襲う。虎兵衛はそれを素早く交わす。交わした後の地面は、炎の海と化している。
「よくも、よくも、僕ちゃんの巨人を殺したなぁ。許さんぞぉ。こうなったら、取って置きのスペシャル魔法で、貴様を丸焼きにしてやる」
ムークは両手を前に出し、魔法を発動させる。両手から、龍の形をした炎の魔法が放たれる。その炎の龍は、真っ直ぐに虎兵衛の所へと突き進む。
「次から次へと、色んな物を出すでござるな?お主は大道芸人でござるか?」
虎兵衛は、炎の龍をヒョイと交わす。しかし、交わされた龍は方向を立て直し、再び虎兵衛を襲う。虎兵衛はやれやれという顔で、また炎の龍を交わす。が、また炎の龍は方向を変え、虎兵衛に食らい付こうとする。
「その炎の龍の魔法は、追尾型の魔法なのだ!つまり、貴様が逃げても、逃げても、死ぬまで貴様を追っ掛けて来るのだ。どうだ?天才だろ?僕ちゃんは!」
ムークは完全に勝ちを確信した顔で、満面の笑みを浮かべている。私は炎の龍を相殺する為に、水の玉の魔法を発動させ、炎の龍にぶつける。
ジュワっという水の蒸発する音がして、儚くも水の玉の魔法は消えてしまう。炎の龍はなおも、何事もなかったかの様に、また虎兵衛を襲う。虎兵衛はまたそれを交わし、炎の龍を睨んでいる。
私はまた、自分の力不足を痛感する。虎兵衛の役に立てない。ぐっと唇を噛み締める。
「ならば、拙者もスペシャルな技を出そう!」
虎兵衛はニッコリと笑い、手を伸ばした。
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