第16話 敵の罠

「それでは、タッグマッチ成立だな?」


ムークはしたり顔をし、私の方を見て嘲笑している。




「エリール殿、良いのでござるか?」


虎兵衛は、心配そうに私を見つめる。




「えぇ、大丈夫よ」


私は自分に言い聞かす様に、虎兵衛に答える。




他の人にこんな危険な事を、任せられないという気持ちと、あの魔法使いの態度が気に入らないという気持ちが入り交じって、こんな決断をしてしまった。




普段、慎重に物事を決める、私らしからぬ行動だ。でも、後悔はない。命を懸ける覚悟は出来ている。




「ククク、では始めるとしようか?」


ムークは、ほくそ笑んで、視線を横にずらす。




次の瞬間、シュッという風を切る音がする。何かが虎兵衛の顔を目掛け、凄いスピードで飛んで来る。虎兵衛は右手をスッと出し、その何かをパシッと掴む。




「タッグマッチをすると言った側から、これでござるか?何を食えば、こんなに卑怯になるのか分からないでござるよ」




虎兵衛の手には、矢が握られていた。狙撃された。私はそう思い、矢を放ったスナイパーを探す。右の前方から、弓を構えているメラーン国軍の兵士を発見する。




私は呪文を詠唱し、水の玉の魔法を発動させ、矢を放ったスナイパーにそれを叩き込む。スナイパーは悶絶し、動かなくなる。




「もしかしてお主、拙者にビビっておるのでござるか?」


虎兵衛は掴んだ矢をポイッと捨て、首をこきこきと動かしている。




「何だと!無詠唱の魔法使いの僕ちゃんが、貴様にビビっているだと?ふざけるな!弓隊、もう矢を射たなくていい!こいつは僕ちゃん達で殺す!行け、巨人よ!そいつを食ってしまえ!」




「うがあああああああ」


上半身剥き出しの巨人が叫び、こん棒を引っ提げ、こちらに突進して来る。




「魔法使いよ。ちと、ものを尋ねるが、この巨人ちゃんも哀れなゴブリン達の様に無理矢理、戦わされているのでござるか?」




虎安衛はまたアゴに手を当て、のん気に敵の魔法使いに質問している。




「そいつは元々、人の肉を食らう事が大好きな巨人で好戦的だ。だから、僕ちゃんの魔法が効かなくなっても、貴様達ドンウ国のバカどもを、ちゃんと食べてくれるから心配するな」




「なるほど。それほど可哀想な巨人ちゃんじゃないでござるな。なら、躊躇なく斬る事が出来るでござる」




虎兵衛は鞘から刀を抜き、構える。私も、戦闘開始だと意気込み、呪文を詠唱する。水の刃の魔法が発動する。鋭利な刃物の様な水の魔法が、巨人を捕らえる。




キンという、刃物が金属にぶつかる様な音が鳴り響く。巨人は何事もなかった様にこちらに向かって、勢い良く走って来る。




私の魔法が全く効いていない。私は愕然とした瞬間、虎兵衛が刀を鞘に戻し、私を抱き抱える。




「何してんの!こんな時に!」


私が虎兵衛に叫んだ瞬間、私のさっきまでいた場所が炎に包まれる。




私は抱えられた状態で、上空を見る。炎の欠片が、まるで隕石の様に降って来る。虎兵衛は私を抱えながら、敵の炎の魔法を素早く交わしていく。




前を向くと、巨人が私達の目の前まで迫って来た。巨人は大木の様なこん棒を、私達目掛けて振り下ろす。虎兵衛は私を抱き抱えながら、それを間一髪で交わす。ドンという、地面を叩き付ける音が響き、こん棒が地面をえぐる。




そこへ敵の炎の魔法の追撃が来る。虎兵衛は見事なフットワークでそれも交わす。が、全て交わし切れない。彼の肩口を炎の魔法がかすめる。肩は出血し、焼け焦げている。




私は抱き抱えられながら、虎兵衛の顔を見る。汗まみれで、険しい顔をしている。




防戦一方だ。私は、現在の戦況に恐怖を感じる。そして何故、敵はタッグマッチにしたのか、私はだんだん分かってくる。




私が虎兵衛と組む様に仕向けられたのは、虎兵衛の足かせに利用する為なのだ。つまり、私という虎兵衛にとっての足手まといを付ける事によって、今の様な反撃出来ない状況を作り出す為。




私は悔しくて涙が出る。まんまと、敵の罠に引っ掛かったのだ。私は、虎兵衛に迷惑をかけている、申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。




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