第15話 リベンジマッチ
メラーン国軍が再び、我が国の領土へ入って来たと言う一報が、我々の元に入る。私と虎兵衛は直ぐ様、騎士団を率いて、敵軍が現れたという場所へと進撃を開始する。
先の戦いから一ヶ月後、無詠唱の炎の魔法使いは、言葉通り、再びドンウ国に来たのだ。
今回、戦いの場となるのは、メカワの平野だ。見渡す限り地平線とも言える、何もない平野だ。この場所を、敵が戦いの場に選んだのは、恐らく先の戦いでの反省からだと思われた。
敵の魔法使いムークが、丘の上で死角になっている場所から、我が国の騎士団長ギッガに奇襲攻撃され、あわや命を落としそうになった。同じ過ちを犯さない様に、見通しの良い戦場を、敵は選んだ訳だ。
敵も考えて来ている。前回の様に、油断している所を突くという戦法は、恐らく通用しないだろう。私も、前回の戦いよりも厳しいものになると考え、気を引き締めて馬を進める。
私は敵の軍を前にし、思わず目を疑ってしまう。敵の大将、ムークと思われる男の隣に、一際大きな人間が一人、いや人ではない。巨人がズシン、ズシンと足音を立ててやって来る。
背の高さは、普通の人間の三倍はゆうに越えている。動物の毛皮で出来たパンツを履き、上半身裸姿で、手には大木の様なこん棒を握っている。
「また、とんでもない者を連れて来たでござるな」
私の隣にいる虎兵衛がアゴに手を当て、感心して見ている。私とその他の騎士達は、あの巨人と今度は戦わないといけないのかと、顔が皆青冷めている。
「約束通り、ちゃんと来てやったぞ。ドンウ国のバカどもめ。僕ちゃんは義理堅い人間なんだ。きちんと皆殺しにしてやるからな」
魔法使いムークは、遠くの方からこちらに向かって叫んでいる。
私は敵軍を見て、あれ変だなと、気付く。前回の敵の隊列の配置とは、明らかに違うのだ。前回の戦いでは、魔法使いを守る為に、前線にいたゴブリン達や、メラーンの兵士達が、魔法使いのかなり後方にいる。
つまり、敵軍は先頭に大将の魔法使いと巨人がいて、その後ろに兵士達がいるのだ。通常では明らかにおかしい配置の仕方なのだ。
「どうしたでのござるか?自慢のゴブリン達を、後ろに下げて、何か良からぬ事を企んでおるのでござるか?」
虎兵衛も私と同じ事に気付き、ストレートに敵の大将に疑問をぶつける。
「貴様はあの時の、憎きバカ侍ではないか!貴様のおかげでゴブリン達が、ビビって使い物にならなくなったんだぞ!あの時、バカみたいにゴブリン達を斬りやがって。無理矢理、魔法をかけて、戦わせてたのに、言う事を効かなくなったんだぞ!」
敵の大将、魔法使いムークはまた、地団駄を踏みながら、顔を真っ赤にして叫んでいる。私はこれは演技ではなく、事実なのだろうと、敵の言葉をそのまま受け止める。
つまり、虎兵衛がここにいる限り、ゴブリン達は彼を恐れて、我々を攻撃する事が出来ないという事になる。
確かによく見れば、ゴブリン達は何かに怯えている様な、そんな雰囲気にも見える。私は、これも敵の策かもしれないと、安心しないで一応の警戒をする。
「では、お互いにそういう状況ならば、拙者とお主の一騎討ちは、どうでござるか?お主も拙者が邪魔なのでござろう?拙者もお主が、邪魔なのでござるよ」
虎兵衛は、笑いながら敵の大将を挑発する。ムークはじっと虎兵衛を睨んで、考えているみたいだ。
「そうだな。初めて、僕ちゃんとおバカ侍の意見が合ったな。僕ちゃんも貴様を、一番にぶっ殺してやりたい気分だ。だから、二対二のタッグマッチだ!それなら、受けてやる!」
ムークは虎兵衛を指差し、挑発し返す。虎兵衛も首をかしげ、質問を返す。
「その二対二のメンバーは、どうするでござるか?」
「僕ちゃんと、この巨人VSバカ侍と、そこのドンウ国の王女だ!」
ムークは、今度は私を指差して、叫ぶ。私は意外な展開に付いて行けず、えっという感情になる。
「エリール殿、どうするでござるか?断った方が良くないでござるか?」
虎兵衛は困惑した顔で、私に聞いて来る。
「上等だわ!この勝負、受けてやるわ!」
私が勢いでそう答えると、虎兵衛は更に困った顔をして、私の方をじっと見ていた。
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