第14話 男の仁義

メラーン国軍の兵士達やゴブリン達は、大将ムークが撤退した為、総崩れになり、散り散りに逃げて行く。この国に攻める前とは、打って変わって、見るも無惨な姿だ。




この戦い、我等ドンウ国軍が、敵国メラーン国軍に勝利し、侵略を見事阻止したのである。




我が国としては、喜ばしい結果となった。しかし、失ったものは、とてつもなく大きい。




「ギッガ!」


私と虎兵衛は丘の上に上り、倒れているギッガの元へ駆け付ける。彼は体中、傷だらけで出血し、全身は大火傷をしていた。ギッガがあまりに酷い状態なので、私は直視する事が出来ない。私の頬に涙が伝う。




虎兵衛がギッガの身体を抱き抱え、彼を起こす。


「ギッガ、見事でござった。お主の勝利でござるよ。敵は去って行ったでござる。」




虎兵衛が、意識のハッキリしていないギッガにそう告げると、ギッガは力無く微笑む。




「虎兵衛・・・、エリール様を・・・たの、む・・」


ギッガは最後の力を振り絞り、そう告げると息絶える。




虎兵衛はゆっくりとギッガを寝かせた後、立った状態でうつむいて、動かない。拳をぎゅっと握っている。その拳から、ポタポタと血が滲んで落ちている。




私も涙が止まらない。幼い時から、一緒に育って来た仲間が死んだのだ。私は放心状態になり、ただ泣く事しか出来なかった。






後日、この戦いで戦死した者達を供養する為、葬儀と墓が設けられた。私達は悲しみに暮れた。だが、いつまでも悲しんではいられない。




戦争はまだ、終わっていないのだ。あの魔法使いは、近い内に必ず、この国に攻めて来る。私達はまた、戦う準備をしないといけない。一人でも多く、この国の者が、生きて帰って来る事が出来る様に・・・・。






私はある朝、虎兵衛が寝泊まりをしている部屋を訪れ、彼の部屋のドアをノックする。虎兵衛が、ドアを開ける。彼はまだ寝ていた様で、眠そうな目を擦りながら、私を部屋に迎え入れる。




彼の使っている部屋に、私は初めて入ったのだが、ベッドしかない殺風景な部屋だ。私は、用件を伝える為、早速話を切り出す。




「虎兵衛、この国を出なさい」


「は?何でござるか。唐突に」


虎兵衛は、完全に目の覚めた顔になる。




「私は、虎兵衛に死んで欲しくないの。次にあの敵国の魔法使いが来れば、あなたは殺されるわ。だから、虎兵衛だけでも、逃げて欲しいの」




私は、自分の想いをぶちまける。虎兵衛は少し寂しそうな顔をし、うつむいて考える。




「エリール殿は、拙者にこの国の者達を見捨てて、一人だけ逃げろと言われるのでござるか?」




「あの魔法使いは、無詠唱の魔法を使うのよ。あなたがいくら強いと言っても、あの者には勝てない」




「悲しいでござる。エリール殿は、拙者がアイツより弱いと思っておるのでござるか?」




「そうよ。ギッガだって、殺されたじゃない。もう、私は仲間が死ぬのを見たくない!」




私は感情を抑え切れず、涙をこぼし、叫んでしまう。




「拙者も、エリール殿と同じ気持ちでござる。この国の人達が好きだから、拙者もこの国の者が死ぬのは、見たくないのでござる」




虎兵衛は私の目を見つめながら、優しく微笑む。




「拙者はエロくて、女好きではござるが、侍なのでござる。男には、男の仁義と言うものがあるのでござる。ギッガに、エリール殿の事を託された。約束を果たさねば、ならぬのでござるよ。」




「そんなの私は望んでない!あなたに生きていて欲しいのよ!」




「エリール殿は、命を懸けて戦うのでござろう?」


「私は王女だから、戦う義務がある」




「ならば、なおさらでござる。すまぬが今回のこの件、拙者は引けぬでござる」


「バカよ、あなたも・・・」




「心配せずとも、拙者はあの魔法使いに勝つでござるよ」


虎兵衛は、自分の胸をポンと叩く。




虎兵衛には、戦って欲しくない。この国の人達にも、死んで欲しくない。敵国からこの国を守りたい。なら、虎兵衛に戦って貰わなければ、その望みは絶望的だろう。




私の中で、私の希望と葛藤が入り交じる。矛盾した気持ちがぶつかり合い、訳が分からなくなる。




そんなモヤモヤした気持ちのまま、また再び敵が攻めて来る・・・・。


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