第13話 切り札は最後まで・・・

騎士団長ギッガはバスタードソードを構え、魔法使いの後方から斬り付ける為に、ムークに飛び込む。魔法使いムークは咄嗟に殺気を感じ、振り向き右手を伸ばす。




ドンという衝撃音が鳴り響く。




ムークの右手から放たれた炎のレーザーの魔法が、ギッガの身体の中心を貫いて行く。ギッガの剣は、後数センチという所で、魔法使いに届かずに空を切る。




ギッガの胸に空いた穴から、大量の血が吹き出る。ギッガは、そのまま仰向けにドサッと倒れ込む。




「うわああ、今のは、今のはマジで焦った。殺られるかと思った。天才の僕ちゃんが、もう少しで死ぬとこだった。ふざけるなよ!」




ムークは腰を抜かした様で、その場に座り込んでいる。顔から大量の汗をかき、小刻みに震えている。




私は、衝撃の光景を目の当たりにし、頭が真っ白になる。ギッガは確かに、ムークを倒せる距離にいたはずなのに。




予測していた結果と別の現実を目の前にし、私は少しの間、混乱状態に陥る。しかし、これではいけないと思い、私は冷静さを取り戻し、思考を整理する。




ギッガの剣が当たる前に、ムークの魔法が発動した・・・。なぜ・・・・?




私は、その時の場面を思い出す。魔法使いムークは呪文を詠唱していなかった・・・。




まさか!




「僕ちゃんは、無詠唱の魔法を使う事が出来る天才魔法使いなんだよ。残念だったな。バカ騎士め!切り札は最後まで取っとくんだよ!」




ムークは震えた足で、ゆっくり立ち上がりながら、血を流し、倒れているギッガに吐き捨てる。




無詠唱の魔法使い・・・。私は再び、絶望感をこの魔法使いによって与えられる。




無詠唱の魔法・・・。つまり、呪文を唱えなくても、魔法を発動させる事が出来るのだ。




通常の魔法は、呪文を唱えてから魔法が完成され、発動する。時間にして、約四秒から五秒、掛かる訳だ。




しかし、この無詠唱魔法は一秒と時間は掛からない。つまり、近距離に近付いても、剣士優勢とはならず、常に優位に戦う事が出来るのだ。




最悪の敵だ・・・。私は再び呆然として、固まってしまう。周りの騎士達はそんな私を見て、必死で襲って来るゴブリンから私を守っている。




「しっかりするでござる、エリール殿!」


虎兵衛が、前線から私の所へ戻って来る。私は、そこで正気を取り戻す。




「何故、戻って来たの?虎兵衛!」


「敵の大将を討ち取っても、お主が死んでしまったら、拙者達の負けでござる。気をしっかり持つでござる」




彼は、私に力を与えてくれる。私は再び元気を取り戻し、呪文を詠唱し、周りのゴブリン達を倒していく。




「貴様、ゾンビか!」


丘の上がまた、慌ただしくなっている。血だらけのギッガがゆっくりと立ち上がり、ムークに迫っている。




ムークは、火炎放射器の炎の様な魔法をギッガに放つ。ギッガは全身を焼かれながら、片膝を付くが倒れない。




「虎兵衛、お願い。ギッガを助けに行って。ギッガが死んでしまう」


私は、ゴブリンを倒しながら、隣で刀を振るう虎兵衛の方を見る。虎兵衛はしばらく無言だったが、ようやく言葉を発する。




「もう、ギッガは・・・、死んでおるのでござる」


「え・・・」


私は、言葉の意味が分からず聞き返す。




「何、言ってるの?あそこで立ってるじゃない。動いているじゃない。ふざけないで!」


「もう、肉体は死んでいるのでござる。ギッガを動かしているのは、エリール殿を愛する想いだけでござる・・・」




私は、虎兵衛の言葉を受け入れられず、丘の上を再び見る。ギッガは、何度もムークの魔法を食らい続ける。それでも、ギッガはボロボロの肉体を引きずる様に、またゆっくりとムークの方に近付いて行く。




ムークは、このギッガの人ならざる行動に恐怖し、逃走を図る。私は、ムークを逃がすまいと魔法を放つが、ゴブリンが盾となり、邪魔をしてそれを阻む。




「ドンウ国のバカども!この僕ちゃんに、恥をかかせやがって!必ず全員皆殺しにしてやる。覚えていろ!」




ムークは、そう言い放つとゴブリン達を壁にして、私達の追っ手を阻止しながら、見えなくなるくらいまで逃げて行った・・・・。





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