第12話 魔法使いまでの生命線となる距離
虎兵衛は刀を鞘から抜き、ゴブリンの群れの中へと突っ込んで行く。肉の切り裂かれる音と悲鳴声が、入り混じり、ゴブリンの肉片と血しぶきが辺りに飛び散る。
虎兵衛は一直線に、敵の魔法使いのいる丘を目指している。私は、騎士団の隊列の後方から馬を走らせながら、虎兵衛の動きを目で追う。しかし、彼の動きが速過ぎて、何をしているのか全く分からない。
ただ、虎兵衛の通った後には、ゴブリンの死体の山がドンドン出来上がっていく。
こんなに彼は強かったのか・・・。改めて私は、虎兵衛の強さに驚嘆する。
「虎兵衛に続け!」
虎兵衛がゴブリンを倒して切り開いた道に、騎士団長ギッガは馬と共に駆け抜けて行く。その後を他の騎士団の騎士達も、騎馬で追い掛ける。私も遅れまいと、後方から騎馬で必死で追い掛ける。
するとまた、前方の上空から炎の玉が降って来る。狙いは虎兵衛だ。
「虎兵衛、危ない!」
私は、思わず叫んでしまう。
虎兵衛はキッと首を上げ、炎の玉を確認すると、後方にジャンプし、それを交わす。炎の玉は地面に激突すると爆発し、周辺のゴブリン達を蹴散らして行く。
ゴブリン達は焼け焦げた者や、身体の一部が吹き飛んだ者が悲鳴を上げている。
「味方のゴブリンごと魔法で攻撃して来るとは、血も涙もない非情な男でござるな。騎士団の者よ、拙者と距離を取るのでござる。拙者が囮になるゆえ、騎士団の皆は隙を付いて、魔法使いを討つでござる」
騎士団長ギッガと、その後に続く騎士達は、突撃するスピードを緩め、虎兵衛に言われた通りに距離を空ける。
「性格のねじ曲がった魔法使いでござるから、魔法の方もねじ曲がっているでござる。だから、コントロールが悪くなって、まるで当たらないでござる。いわゆるノーコンってヤツでござる。ヘボ魔法使いでござるなぁ」
虎兵衛は、丘の上にいる魔法使いムークを指差し、挑発する。よく見ると、お尻ペンペンもやっている。私は、そんな怒らす様な事をして大丈夫なの、と心配しながら、馬を走らせる。
「この天才の僕ちゃんに向かって、ヘボ魔法使いだと。ふざけるな!貴様、丸焼きにしてくれる」
ムークは呪文を唱え、また新たなる魔法を発動させる。彼の伸ばした右手から、レーザーの様な炎が放たれる。虎兵衛は間一髪、飛び上がり、それを交わす。炎のレーザーが当たった地面は炎の海と化す。
「ロボットのビームみたいな魔法でござるな。オシッコ漏らしそうになったでござる」
虎兵衛は体勢を立て直し、再び襲って来るゴブリン達にまた斬り付ける。
丘を目指す騎士達も、ゴブリンの守りの壁を何とかこじ開けようと奮闘しているが、数が多過ぎて、なかなか前に進めない。私も水の刃の魔法を発動させ、ゴブリンを倒して行くが埒が明かない。
虎兵衛は、丘の近くまで接近する。ムークもこれ以上、虎兵衛を近付けまいと魔法を必死に駆使して、応戦してくる。
「あれれ、どうしたでござるか?性格だけじゃなくて、頭も悪い魔法使いでござるかな?一つも魔法が拙者に当たらぬでござるよ。学習する力がないでござるか?大丈夫でござるかな?」
虎兵衛は、ムークの魔法を全て避け切っている。何というスピードなのだろうか。あそこまで近付いているのに避け切れるとは、虎兵衛の戦闘能力の高さに私は再び驚かされる。
「僕ちゃんに向かって、頭が悪いだと。人生で初めて言われたぁ。悔しい!僕ちゃんは天才なんだぞ。剣を振るしか能のないバカどもが、バカにしちゃいけないんだぞ!」
ムークは顔を真っ赤にし、地団駄を踏んでいる。怒り狂って、もはや虎兵衛を殺す事しか考えていない様だ。
今度は、ムークは両手から炎の銃弾の様な物を連射して、虎兵衛に放って来る。虎兵衛はゴブリンを盾にする様な避け方で、それを凌いでいる。
私は、視線をムークに移した後、驚きの光景を目の当たりにする。
ムークの後方に、馬を降り、ゆっくりと近付くギッガの姿を捉える。虎兵衛がムークを怒らせ、注意をそちらに向けている間に隙を見て、ギッガは丘の上に登り、ムークの後ろを取ったのだ。
ギッガとムークの距離は、剣の届く範囲まで迫ろうとしていた・・・・。
魔法を発動させるのに、間に合わないくらいまでに・・・。
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