第10話 例外の結婚条件
私は、城の中にある剣術修練所の前の廊下に差し掛かる。そこで、虎兵衛とギッガが、二人でいる所を見つける。
私は二人に声を掛けようとしたが、二人が真剣な顔で話をしているので、少し躊躇して、その様子を隠れて見てしまう。
「虎兵衛、頼みがある。敵国の魔法使いを俺に殺らせてくれ」
ギッガは、虎兵衛に頭を下げている。私は、二人が何か大事な話をしていると感じ、悪いと思いながらも盗み聞きをしてしまう。
「分が悪い戦いでござるよ。魔法使いに斬り付ける役が一番、死ぬ確率が高いでござるよ」
「あぁ、覚悟の上で言っている」
「何故でござるか?」
「虎兵衛は、この国の王族の結婚についての規則を知ってるか?」
「確か政略結婚で、同盟を結びたい国の王族か貴族と結婚しなければならぬとか、エリール殿が言うておったでござるな」
「そうだ、それが平常時の場合だ。例外の話は聞いた事あるか?」
「いや、話の途中までしか、聞いてないでござる」
虎兵衛は首をかしげて、ギッガに答える。
「この国を救いし、英雄とならば、平民であっても王族との結婚が許されるのだ」
ギッガは一際、大きな声で虎兵衛に熱弁する。
「ほぅ、つまり、この国を救うくらいの英雄の優秀な遺伝子ならば、王族に迎え入れても良いというシステムでござるな。なかなか合理的でござる」
虎兵衛は、アゴに手を当て、フムフムとうなずいている。
「俺は、エリール様を好いている。あの方を花嫁としたいのだ。今、そのチャンスが来ている。敵国の魔法使いを討てば、確実にこの国の英雄だ。それが、平民の俺が唯一、エリール様と結婚出来る条件なのだ」
ギッガは拳をギュッと握り締め、天を見上げる。私は、その様子を廊下の柱の陰から見聞きしていた。
ギッガの私に対する好意には、気付いていた。しかし、私はギッガに対して、恋愛感情を持ち合わせた事は一度もない。
「ギッガ、お主は魔法使いに殺されるかもしれないでござるよ。それでも、戦うのでござるか?」
虎兵衛は、寂しそうな目でギッガを見る。
「戦う、決めた事だ。他の男に、あの方を取られるのを見ているくらいなら、死んだ方がマシだ」
「お主はバカでござる。他の女に命を懸けるという選択肢はないのでござるか?」
「クドい!ない!」
ギッガは、虎兵衛を睨み付け答える。
「そうか、そこまでの決意でござるか」
虎兵衛は下を向き、諦めた様な表情を見せる。
「貴様はどうなのだ?エリール様の事を、どう思っている?」
ギッガは、チラリと虎兵衛の顔を見る。私はドキッとし、物陰から耳を澄ませる。
「拙者は、今は考える事が多くて、よく分からぬでござるよ。すごく魅力的な女性だとは、思っておるでござるが・・・」
「そうか、ならば、俺が魔法使いを討つ事に協力してくれ」
ギッガは真剣な顔をし、虎兵衛の目を見る。
「エリール殿は、お主の事をどう思っておるでござるか?拙者、彼女には好きな男の元へ嫁いで貰いたいと考えておるでござる」
「もちろん、俺に惚れているはずだ。だから、俺に任せて協力してくれ。必ず、魔法使いを討ち取り、エリール様を幸せにしてみせる」
ギッガは自信満々に答える。
私は、ギッガのそういう所がダメで、好きになれないのだ。人の気持ちを無視して、勝手な解釈をする人間は、私は本当に苦手なのだ。
「ギッガ、それはモテない男の考え方でござるよ」
「え・・・」
ギッガは虎兵衛にそう指摘され、目が点になっている。
「それでは、エリール殿に愛想をつかされてしまうでござるよ」
「それは、嫌だ。虎兵衛、どうしたら良いのだ?恋愛相談に乗ってくれ」
「嫌でござる」
「そこを何とか」
「では、お主が魔法使いに勝てば、有料で恋愛相談に乗ってやるでござる」
「なにっ、貴様、友から金を取るのか?」
「お主の恋愛相談は面倒くさそうなので、金でも取らないと、こちらの身が持たないでござるよ」
虎兵衛は、冗談交じりでギッガに答える。ギッガは、聞いて貰わないと本当に困るみたいな顔をしている。
「ギッガ、絶対に死なないでくれでござる」
「あぁ、俺は敵に勝って、生きて帰って来る」
男達は誓い合った。
私は、それを複雑な心境で聞いていた・・・・。
敵国には、もちろん勝って欲しい。でも、私はギッガの花嫁にはなりたくはない。
そして、明日を迎える・・・・・・。
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