第8話 強大な魔法使いに勝つ戦略
私は、その嫌な知らせを、昼過ぎに街中で聞いた。
「エリール様、隣国メラーンが再び、攻めて来ました。今から、国の要人を集めて、軍議との事。至急、王城の会議の間へお越し下さい!」
兵士が息切れをしながら、私に伝える。私は、うつむき、しばらく考えた後、足を城に進める。
召喚の儀式を行ってから、何の策も無く、今を迎えてしまった。あれから考えても、私には他のアイデアが、何も浮かばなかった。
自分の無能さを痛感する。皆に、本当に申し訳ないという気持ちで、いっぱいだ。私は重い足取りで、城に向かう。
「どうしたでござる?元気がないでござるよ」
途中の街路で、虎兵衛が私に気付き、話し掛ける。
私は、押し潰されそうな感情を抑え切れず、虎兵衛に思ってる事をぶちまけてしまう。
「なるほど、エリール殿は、どうしたら良いのか分からなくなって、悩んでおったのでござるな」
「ごめんなさい。色々、聞いてもらって・・・。私は国のみんなを救いたいのに、何も思い付かなくて。ホントに悔しい・・・・」
「一人で何でも、背負い込み過ぎでござるよ。エリール殿は、責任感が強過ぎるでござる。ま、そこが良い所でもあるのでござるがな」
私は、人通りが少ない路地裏で、虎兵衛に話を聞いてもらった。誰かにこの気持ちを、分かってもらいたかった。虎兵衛に思ってる事を、全部話すと気持ちが少し楽になった。
「拙者、この国の為に戦うでござる。ここには、友が大勢出来た。エリール殿の辛そうな顔を見るのも、嫌でござる。任せるでござるよ」
虎兵衛は笑顔で、私に向かって言った。だが、私はうつむいて、考えてしまう。私は、虎兵衛にそれを望んでいない・・・・。
何故なら、もし虎兵衛が戦いに参加すれば、敵の魔法使いに殺される。私は、そう思ったからだ。
確かに、虎兵衛は強いかもしれない。でも、相手は何度も言う様に、魔法使いなのである。私には、虎兵衛が勝つビジョンが浮かんで来なかったのだ。
「あ、いけない!会議の間に行かないと・・・」
私は、呼び出されていた事を、すっかり忘れていた。
「拙者も行っても、よろしいでござるか?どんな話をしているか、聞いてみたいでござる」
虎兵衛が、軍議に興味を示すのは、正直意外だった。でも、私も虎兵衛の意見を聞いてみたかったので、一緒に会議の間へ来てもらう事にした。
会議の間に、虎兵衛と一緒に行ってみると、軍議はほぼ、終わりかけている様な、そんな雰囲気だった。
室内には、王族や貴族が派手な格好で、大きなテーブルを囲む様に座っている。端の席には、騎士団長のギッガの顔も見える。
「では、奴等を迎え撃つのは、籠城作戦という方向で、よろしいかな?」
カラフルな衣装を纏った貴族達が、笑顔でうなずいている。
「お父様、遅れてスミマセン」
私と虎兵衛は空いている席に着き、テーブルの中心の席にいる国王に挨拶をする。
騎士団長ギッガは席を立ち、遅れて来た私達の為に、議論した内容を説明し出す。
「敵国メラーンを討つに辺り、籠城にて迎え撃つか、野戦をこちらから仕掛けるか、という話をしておりました。我が国の方が、兵士も少なく、かなり分が悪いので、籠城にて敵を討つという案に、まとまり掛けておったのです」
私はうなずきながら、ギッガの話を聞き、思考を整理する。私は、横の虎兵衛を見る。アゴに手を当て、考えているみたいだ。
私は、作戦の事がよく分からないのかなと思い、詳しく説明をする。
「虎兵衛、籠城というのは、城や街に立てこもって、敵を待ち伏せする戦法よ。野戦というのはその逆。表に出て、戦う事を言うのよ。分かった?」
虎兵衛はなおも、同じ姿勢で無言で考えている。
「この策を考えたのは、誰でござるか?」
虎兵衛は席を立ち、辺りを見回す。
「私達だが、異国のバカ侍には、理解出来なかったのかな?この素晴らしい作戦が・・・」
カラフルな衣装の貴族達が、自信満々な顔をし、虎安衛を嘲笑している。
「こんな戦った事もないド素人で、ビビりのアンポンタンに、何故大事な作戦を任せるでござるか?こんなの愚策でござる」
「な・・・」
場の雰囲気が一気に凍り付く。
「拙者が、敵国の魔法使いに勝つ戦略を、示してやるでござる」
虎兵衛は、アゴに手を当て、不敵な笑みで場を支配した。
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