第7話 高速の剣の騎士VSエロ侍
ギッガは再び、重い剣を抜き、構える。虎兵衛も、刀を抜き、ゆったりとした姿勢で構える。
私の後ろで、騎士達の話し声が聞こえる。
「この勝負、どちらが勝つと思う?」
「どう考えても、ギッガ様だろう。あの方は、周辺諸国から"高速剣のギッガ"と恐れられてるんだから」
「そうだな。知らずに決闘を受けた、侍が気の毒だな」
そうなのだ。我が国の騎士団は、周辺諸国の中では、魔法使いがいなければ最強だ。その騎士団の中にあって、一番の剣の使い手なのが、ギッガなのだ。
あの重たいバスタードソードで、目にも見えない速さで、相手を斬りつける事から、"高速剣のギッガ"と呼ばれる様になったのだ。
私も正直、この決闘、虎兵衛がギッガに殺されると思ったから、止めさせたかったのだ。
しかし、私の見ている状況は、予想していたものとは違った。ギッガの様子がおかしい。顔から大量の汗を掻き、戸惑って、斬り込むのを躊躇しているような、そんな感じであった。
一方、虎兵衛は自然体で、余裕にも似た表情でギッガを見ている。
そういえば、私も虎兵衛が戦う所は、初めて見るのだ。私の"虎兵衛はギッガに負ける"という常識は、虎兵衛にとっての常識ではないのか、私はこの決闘から、目を離せなくなっていた。
そして、勝負は一瞬にして、決した。
覚悟を決めたギッガが、虎兵衛に斬り込んで行く。カンと鈍い金属音が鳴り響いたと思うと、ギッガのバスタードソードは宙を舞い、クルクルと数回転した後、地面に突き刺さる。
私は、あまりに二人の動きが速すぎて、何が起こったのか分からなかった。
気が付けば、虎兵衛の刀の切っ先が、ギッガの喉元に突き付けられていた。
「俺の負けだ・・・・。殺せ。生き恥はさらさぬ」
ギッガはひざまずき、うなだれる。
「嫌でござる。お主は殺すには惜しい男。だから、拙者がお主の命を、好きに使わせて貰うのでござる」
虎兵衛は刀を鞘に収め、アゴに手を当て考える。
「そうだ!拙者の友になって貰おう。そして、この国の役に立つように、命を使って貰おう」
「この俺に、生き恥をさらせと言うのか?」
「そうでござる。ま、あと、お主が死ぬと悲しむ者がおるので、殺すと拙者が悪者になるのでござる。負けたのだから、ごちゃごちゃ文句言わずに、拙者に従うでござる」
「それでいいのか。すまない・・・」
ギッガは再び、力なくうなだれる。
場にいた観衆達は、意外な結果にしばらく唖然としていたが、事が丸く収まった為、歓声が上がる。虎兵衛を、褒め称える声も聞こえる。
私は安心して、嬉しくて、涙が止まらなくなる。虎兵衛は、私の方を見て、ニッコリと微笑むとギッガの腕を掴んで立たせる。
「今から、サシで酒場で飲むでござる。二人で熱く、語り合うでござる」
虎兵衛はそう言うと、ギッガを引きずる様に、酒場へ連れて行こうとする。
「待て、まだ早朝だぞ。それに俺にはやる仕事がある」
「お主は先程、死んだ身。今日の仕事は、他の者に任せるでござる。お主に、断る権利などないのでござる。今日は飲むでござる」
と言うと、二人はそのまま去って行った。私は、ホントにあの人、無茶苦茶だなと思った。と同時に、器の大きい人だなとも感じた。
彼の強さ、考え方、最近、私は彼の事が気になって仕方がなかった。
その夜、私は城の廊下で、酔い潰れているギッガを目にする。今の今まで、虎兵衛に連れ回されて、飲んでいたのかと思うと、少し彼の事を気の毒に思う。
ギッガは私に気が付くと、申し訳なさそうな顔をし、フラフラになりながら、挨拶して来る。
「エリール様、申し訳ありません。騎士団長である私が何たる失態を・・・」
「いえ、構わないわ。どうせ、虎兵衛のヤツが、無理矢理いっぱい飲ませたんでしょ。同情するわ」
ギッガは苦笑いすると、真剣な顔を見せる。
「エリール様、あの侍と決闘した時、私は生きている心地がしませんでした。あの男が構えた瞬間、私は必ず敗北すると感じました。あの男の強さ、底が見えません・・・・」
「高速剣のギッガに、それほどまで言わせるとは・・・。やはり、あの決闘、まぐれじゃなかったのね?」
私が、チラッとギッガを見ると、ギッガはコクリとうなずく。
「あの男が、我が軍に加われば、戦況は変わるかもしれません。我等が隣国の侵略を、阻止出来るかもしれないのです。もしかしたら、エリール様なら、あの男の心を動かせるかもしれません。」
私は、これから、どうしたら良いのか考えていた。
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