第5話 王女の私は、好きな人と結婚出来ない

その日は朝から、何か揉め事が起こりそうな、そんな予感に満ちていた。




「城や街を異国人がウロウロするな!目障りだ!」


我が国の騎士団の長、ギッガは、私と虎兵衛が一緒にいる所を見て、叫んだ。




「ギッガ、そんな言い方は良くない。お止めなさい」


私は、ギッガに注意する。ギッガは少しムッとした表情で、虎兵衛を睨み、私の方を向く。




「申し訳ありません、エリール様。この者が、少し調子に乗っていたので、つい。先を急ぎますので、失礼します」




と言って、ギッガは立ち去って行く。




「今の者、何者でござるか?嫌な感じでござる」


虎兵衛も少しムッとして、私に聞いてくる。




「この国の騎士団長、ギッガよ。ちなみに、この国で剣を持たせたら、一番強いわ」




私は、去って行く騎士団長をちらっと見て、虎兵衛に説明する。虎兵衛は、フーンと言って、まだ不機嫌そうな表情をしている。






最近、虎兵衛は私の手伝いをよくしてくれる。無理やり、ここへ召喚された身とはいえ、食事と寝る所を提供してくれる私に、恩義を感じてるようだ。




今朝も、私は虎兵衛に、重い荷物を運ぶのを手伝ってもらう。しばらく、戦争の準備をし、お昼近くに一緒に歩いていると、城にある中庭に差し掛かる。私はそこで、ちょっと休憩しようかと提案する。




「エリール殿は何をしている時が、一番楽しいでござるか?」


中庭のちょうどいい岩で、二人で座っていると、虎兵衛が、急に私に質問してくる。




「え、何だろ?お花を見たり、街の人達と話してる時かな?虎兵衛は何が楽しいの?・・・って聞かなくても、分かるわ。どうせ、エロい事するのが、楽しい事なんでしょ?」




「うむ。拙者、それに命を懸けておるでござる」


私は呆れて、冷たい視線を虎兵衛に送る。




「男とデートするのは、楽しくないでござるか?」


虎兵衛は私の方を見て、また聞いてくる。




私も、どういう意図で聞いてくるのか、よく分からないので虎兵衛をじっと見る。




「さぁ、あんまりした事ないから、よく分からないわ」


「そうでござるか。王女は忙しい。だから、あまりしないのでござるな。では、好きな男のタイプはどんな感じでござるか?」


「え・・・・」




私は初めて、そんな質問をされたから、少し驚く。


「優しくて、誠実な人かな?エロい人は嫌いよ」




私は、ちょっと意地悪に答える。




「なるほど、それは残念でござる」


虎兵衛は淡々と答える。全然、残念がって、いないようだ。私は、少しは面白いリアクションをしろと思ってしまう。




「でも、私は好きな人とは結婚出来ないから」


「どういう事でござるか?」




「私には、実は婚約者がいたの。相手は隣国のソバキヤの王子。いわゆる政略結婚の予定だったのね。同盟の為の。でも、破談になったの」




「どうしてで、ござるか?」




「知っての通り、別の隣国メラーンに攻められて、今、この国は危険な状態だから。だから、ソバキヤの国に援軍を要請をしたのよ。そしたら、援軍を断られ、婚約も破棄されたの。ソバキヤの王子は、強い魔法使いのいる国の王女と婚約したらしいわ」




「なるほど、戦国の世では、よくある話でござるな」




「だから、私は好きな人と結婚出来ない。王女なんて、政治の道具に過ぎないわ。どうせ、ろくでもない、何処かの王族か、貴族の人間と結婚させられるのよ」




私はうつむき、考える。私にとって、幸せって何だろうと・・・・。




「では、王女の地位を捨てて、自由になれば良いのではござらぬか?」


虎兵衛は私の方を見て、笑顔で言ってくる。




この男は本当に何も考えずに、ズバズバと言ってくる。私は、かなり頭にきて、怒鳴る。




「そんな無責任な事、出来る訳ないでしょ!何も分からない癖に、偉そうに言わないでよ!」


「確かに、そうでござるな。すまないでござる」




謝るくらいなら、言うなと、私はいら立つ。虎兵衛も、さすがに申し訳なさそうな顔をしている。




あ、でもと私はある事を思い出す。




「実は、王族の結婚に関して、例外が一つだけあるの」


「ほぅ、例外とは、何でござるか?」




虎兵衛が私に質問したその時、後ろから騎士団長ギッガが怒ったような感じで、勢い良く歩いて来る。




「もう、我慢ならぬ。貴様、俺と勝負しろ!決闘だ!」




ギッガは虎兵衛の前に立つと、そう叫ぶ。私は、その言葉に驚き、二人の顔を見ていた。


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