第4話 侍、美女から魔法を学ぶ

私は、城にある魔法修練所で、魔法の特訓をする。強い魔法使いの召喚に失敗したのだ。敵国の恐るべき魔法使いと対峙出来る魔法使いは、もはやこの国に私しかいないのだ。




しかし、私では敵とのレベルが違い過ぎる。努力では、この差は埋まらない。だからと言って、何かをやらずにはいられない。焦りだけが募っていく。




「おぉ、やっておるな、エリール殿」


虎兵衛が笑顔で、魔法修練所に入って来る。ホントに呑気な男だ。




「何しに来たのよ。私は忙しいの。邪魔しないで!」


私はイライラした感情を虎兵衛にぶつける。




「拙者にも魔法とやらを教えてくれ。興味があるのでござる」


「え、本気で言ってるの?」




私は意外な事を言われたので、驚いてしまう。それはそうなのだ。この国の男達は剣を振るう事にしか関心がなく、魔法を学ぼうと言う者が全くいなかったのだ。この侍、勉強熱心なのかもしれないと、私はちょっと嬉しくなる。




「分かったわ。いいわよ」


「宜しくお願いするでござる」




「まず、魔法と言うのは体内にあるマナと呼ばれる、魔法エネルギーが源なの」


「ほう・・・」




「このマナの力を、ルーン語の呪文を詠唱する事で魔法は発動されるの」


「へぇ・・・」




「普通のレベルの魔法使いで、初級の魔法を発動させるまでの時間は、約四秒から五秒の間くらいと言われているわ」


「はふ・・・」




「ちょっと、聞いてるの?」


「めちゃめちゃ聞いておるでござる」




私は途中から眠そうな顔をしていた虎兵衛に、再び説明をする。




「つまり、騎士や侍と言われる剣士が、魔法使いに勝てない理由は、剣が届く前に魔法で殺られるから。でも、魔法が発動する前の呪文詠唱中に、攻撃を仕掛ければ勝てると思ってるでしょ?」


「ふむ」




「甘いわね。確かに、至近距離なら剣士の方が有利ね。でも、これは戦争。戦いなのよ。相手が易々と近付けてくれる訳ないわ」


「なるほど。だから、エリール殿は剣士では魔法使いに勝てぬと言うておられるのか?」




「そうよ」


私はまた、最悪の現実を自分の言葉で再確認する。




「それは、エリール殿の常識であって、拙者の常識ではないでござるよ」


「え・・・」




「エリール殿は確かに賢い。話し方や考え方で、それは分かるでござる。しかし、柔軟性に欠けるでござる。もっと、色んな角度で物事を見てみるといいでござる。新しい世界が見えて、良い解決法が発見出来るかもしれないでござるよ」




私は初めてそんな事を人から言われ、ハッとする。この危機的状況を、変えられるアイデアがあるかもしれない。私は少しだけ元気になる。




「エリール殿、頼みがあるでござる。実際に魔法を見せて欲しいのでござる」


「いいわよ」




私は魔法の的となる人形を用意し、それを設置する。人形から少し離れた所へ移動し、隣にいる虎兵衛に再び説明する。




「人には相性の合う魔法が存在するの。私が相性がいいのは水の魔法。敵の魔法使いが、得意な魔法は炎の魔法らしいわ。じゃ、実際に見せるわね」




私は深呼吸して、集中力を高め、呪文を詠唱する。そして、右手を前に出して、腕を伸ばし、魔法を発動させる。水の塊が勢い良く、右手から飛び出し、人形に当たる。人形はドンと言う音と共に、砕け散る。




「うおお、これが魔法でござるか?スゴいでござる」


「これは、初歩の水の魔法よ。強力で複雑な魔法ほど、呪文を唱えるのが長くなるわ」




虎兵衛は初めて見た魔法に感動し、喜んでいる。私もそんなリアクションされると、満更でもない気分になる。




「今度は拙者に向けて、その魔法をかけてくれんかの?」


また、この男は理解不能な事を言い出す。




「あなた、まさか人から痛め付けられて、気持ち良くなるタイプなんじゃ・・・」


私はちょっと引き気味に聞く。




「拙者、そっちの趣味はないでござる。興味でござる」




私は分かったわと言うと、あまり乗り気ではなかったが、呪文を詠唱し、極力威力を押さえる様に魔法を放つ。




ドンと音を立て、虎兵衛に腹に直撃する。はうっと言う声を上げ、虎兵衛はその場にうずくまる。




「大丈夫なの?」


「いててて。でも、これで魔法の事が分かったでござる」


「え、スゴい。あなた、天才かも?」


「いや、拙者には使えぬと言う事が分かったでござる」


「は・・・」


「魔法で女の子を裸にして、イヤーン作戦は諦める事にしたでござる・・・」




このエロ侍めと、私はまた怒り、魔法修練所から出て行った。


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