最終話 永遠の約束

 ヤマユリの原が見える丘の上。

 愛しい君の膝の上で俺は微睡んでいた。

 もうすぐ戦が近い。

 俺も戦に身を投じることになる。

 山神とたたえられる猛者の娘婿として。



 俺たちは運が良かった。

 ある日父であるバルサック=リーベルは、山岳地帯の支配者マウル=マノリウスに助けを求めた。

 人肉を求め、食人鬼グールの群れが夜な夜な村を襲ってくると。


 俺と父は戦える男衆を従え、応戦しているものの。

 彼らは何度でも仲間を引き連れ、村を荒らしに来るのだ。


 だからマウル=マノリウスの力が必要だった。猛者であり、多くの精兵を従える山岳の王の力が。


 マウル=マノリウスは、ある条件を出してきた。


「我が娘はお前の次男のことを好いておる。お前の次男が娘を娶ってくれるのであれば、力を貸してやることにしよう」

 それを聞いた父上は、目を輝かせて快諾した。


「願ってもないこと!」と。


 元々俺はマノリウスの娘と恋仲だった。父上も俺の気持ちを知っていたため、マウルが申し出た条件は、本当に願ってもないことだったのだ。



 マウル=マノリウスは配下の兵を従え、父上と力を合わせ、グールの群れを殲滅。

 村は平和が訪れ。

 俺たちは両家に祝福され結婚し、たくさんの子供にも恵まれた。



 しかし。

 近々、この地は戦になる。今、一大勢力を築いているモイル族が、この地の侵略を目論んでいるのだ。

 魔物たちに蹂躙され、周辺の集落や村は滅ぼされている。


 俺の父も、そして俺も戦に向かう。

 山の神の娘婿として相応しい男である為に、俺はずっと強さを求めた。

 厳しい鍛錬を積み重ね、多くの修羅場を乗り越えてきた。

 しかし、今、勢力を拡大させているモイル族は魔物を操る特殊な部族。

 今回は生きて帰って来られるかどうかは、五分五分。もちろん、生きて帰ってくるつもりだが。

 妻も嫌な予感がするのだろう。

 どこか悲しそうな表情で俺を見詰めていた。



「そんな悲しそうな顔をするな」


 俺は彼女の頬に手を当て、微笑んだ。



「例え、俺が死んでも、俺はまた生まれ変わるから」

「……!?」

「生まれ変わる度に、俺はお前と巡り会う。そして夫婦になるから」

「あなた……」



 俺は目を閉じる。

 そして今言ったことを心の中で堅く誓う。


 俺は何度でも生まれ変わる。

 そして何度でも君と夫婦になるから。



~・~・~

 



 目を覚ますと、そこはヤマユリの原が見える丘ではなく、寝室だった。

 隣には裸のハイネルが眠っている。

 思わず夢と同じように彼女の頬に手をあてる。

 すると彼女もまた目を覚ます。マリンブルーの目が合った瞬間、俺は無意識に次の言葉が出ていた。


「ようやく君と出会えた」


 ハイネルは目に涙を浮かべた。

 何となく分かる。

 彼女も同じ夢を見たんだ。

 俺は彼女に告げる。



「また、夫婦として共に暮らそう」


  俺の言葉に彼女は何度も頷いた。




 俺たちは何度でも生まれ変わり、何度でも夫婦になる。

 その約束は、永遠だから。



                           

             END


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