第91話 厭悪 ~徳丸 1~
レイファーの式神を受けとってから、徳丸はすぐに隊員たちやジャセンベル兵に撤退を指示した。
岱胡はどうやらうまくロマジェリカの軍師を撃ち、巧たちと合流したようだ。
未だ城から湧いてくる庸儀とロマジェリカ兵を相手に、少しずつ城を離れていく。
隊員たちを先に、徳丸はしんがりで敵兵を相手にしていた。
城門が目に入る通りへ差しかかったとき、門からまた庸儀の集団が出ていくのが見え、徳丸は自分の隊員たちを呼んだ。
「
足を止めた深山と植田が駆け寄ってくる。
「どうかしましたか?」
「ああ。今、城門から出てきた一団が気になる。おまえたちはこのまま拠点に戻り、加賀野さんたちの指示を仰げ。
そう指示を出すと徳丸は数隊を引き連れて、たった今出てきた一団を追った。
先頭を行く数人に見覚えがあるような気がする。
やつらは西浜へのルートに向かっているようだ。
浜に用はないはず――。
(――麻乃か)
修治と鴇汰が七番の隊員たちを連れ、麻乃の中央侵入を阻むために西浜へのルートへ向かっている。
恐らくロマジェリカの軍師の指示で、それを邪魔しに行くのだろう。
であれば、それを放っておくことはできない。
「松浦、篠岡、あの集団をたたくぞ」
二人がうなずいたのを確認して、足を速めた。
まだ街なかで敵兵に備えて待機していた予備隊と行き会い、通りを先回りさせて挟み撃ちにするように言い含めた。
一団が通りの角を曲がったところで、一気に間合いを詰める。
さすがに庸儀の兵たちもこちらに気づき、通りの向こうから回り込んだ予備隊も合わせて戦闘になった。
ここまで残って進軍しているだけあって、なかなか手ごたえのある連中ではある。
それでも、こちらは人数で上回っているうえにジャセンベル兵も伴っているため、時間をかけずに拘束できた。
「松浦、おまえはこのままこいつらを南浜へ戻し、ほかの敵兵と一緒に拘禁しておくように」
「わかりました」
「ケイン、すまないが南浜までジャセンベルの兵にも何人か同行してもらいたい」
「ああ。さっきの森へ戻れば車もある。いいように使ってくれ」
確かに、これまでと違って夜を迎えることになるから、車のほうが都合がいいだろう。
危険も薄くなる。
「きさまら……あの人をどうするつもりだ?」
唐突に庸儀の兵がそう問いかけてきた。
思わずケインと顔を見あわせる。
「あの人……?」
「本物の紅き華のことだ!」
「……紅き華? 麻乃のことか」
どうするつもりとは、一体どういうことだ?
「麻乃がどうしたっていう?」
「取り押さえたそうじゃあないか! まさかあの人に危害を加えようなど……」
「馬鹿なことをぬかすな! そもそもが麻乃に危害を及ぼしたのは、きさまらのほうだろうが!」
赤い髪の女が現れたとき、麻乃に集中して敵兵が襲い掛かってきたというのは、巧に聞いて知っている。
大陸に潜んでいるあいだも、どうやら麻乃がつけ狙われていたらしいということも、サムに聞き及んでいる。
「最初は確かに……だが今はあの人は我らの希望だ!」
「そうだ! 我々の今後はあの人によって大きく変わる!」
まるで麻乃を救世主かのように見ている姿に、徳丸は困惑した。
一体、なにがどうなると麻乃が大陸の希望になるのか。
「きさまらは一体、なにを言っている……? 麻乃が希望ってのはなんのことだ?」
「――野本、こいつらはなにかを知っている。これは一度、おまえたちの仲間のところへ連れていったほうがいい」
ケインが徳丸に身を寄せ、小声でそう言った。
「テントに戻れば、レイファーさまも戻っているはず。場合によっては詳しい話しを聞けるかもしれない」
「わかった。そうしよう」
ここにいる庸儀の兵たちと徳丸たちのあいだでは、麻乃の今の状況に対する思いに差異があるように感じた。
同盟三国は無理やり覚醒させた麻乃を使って、泉翔を潰すのが目的だと思っていた。
やつらの口ぶりだと、それとは少しばかり違いを感じる。
南浜でサムがロマジェリカの軍師の甘言がどうといっていたけれど、そのせいなのだろうか。
(だとしたら、こいつらになにをいいやがった? こうまで心酔した様子になるってのはどうもおかしいじゃあねぇか)
徳丸自身はまだマドルの姿を目にしていない。
けれど、こうまでいろいろと企ててくることに、どうにも嫌悪感が拭えない。
「松浦、こいつらは俺とケインで拠点へ連れていくことにする。すまないが、篠岡とともにもうしばらく近辺を警戒していてくれ」
「はい。敵兵が現れたときはどうしますか?」
「庸儀であれば拘束を。ロマジェリカの軍師が出ていたときは、退くように」
「わかりました」
「拠点に戻り次第、深山をこっちへ寄越す。状況に変化があれば、すぐに退いて知らせてくれ」
松浦たちと別れ、徳丸はケインとともに庸儀の兵たちを拠点へと連れ帰った。
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