第77話 干渉 ~徳丸 1~
サムのところへ梁瀬の隊員たちを送り、回復を任せてから徳丸は浜へと戻ってきた。
庸儀の兵たちは最初のうちは激しい抵抗をしていたけれど、ジャセンベル軍の介入が始まったとたん、驚くほどおとなしくなった。
サムが庸儀は士官クラスが多く残っているといっていた。ジャセンベルを相手に無理をして傷つき命を落とすことを危ぶんだのだろうか。
多くの兵が捕らえられ、ジャセンベルの船で拘束されている。
徳丸はケインと一緒に反同盟派とジャセンベル兵を数部隊に振り分けると、隊員の
「途中、進軍している庸儀を見つけたら、速やかに拘束して浜へ戻すように」
ケインがジャセンベル兵にそう指示を出している。
「浜の処理が落ち着いたら、
「わかりました」
「
「はい」
反同盟派とジャセンベル兵だけを残していくわけにはいかない。
それは信用していないからではなく、慣れない泉翔で彼らが戸惑わないようにだ。
巧がすでに中央へ向かっているようだから、六番の隊員たちを先に中央へ向かわせるようにして、徳丸は自分の隊員たちを残すことにした。
先へ進んだ部隊がやがて少しずつ庸儀の兵を捕らえて戻ってくる。
ジャセンベルの船に収容していくのを眺めていると、岱胡からテントウムシの式神が届いた。
メモに姿を変え、それに目を通す。
「庸儀の兵が山に入り込んでいるだと? 一体どういうことなんだ?」
「野本、それは一体なんなんだ?」
ケインが不思議なものをみる目つきで問いかけてきた。
「式神だが、これがどうかしたのか?」
「紙になったぞ?」
「ああ。泉翔じゃあ連絡手段に使っているよくある式神だ」
「手紙を飛ばすのか! そんなもの、初めて見たな」
驚きを隠せない様子でケインがつぶやいた。
そう言えば梁瀬がクロムやハンスに執拗に教わっていたのが、式神の使いかただった。
どうやら泉翔と大陸では、その使いかたに大きな違いがあるようだとそのときに知ったけれど、ケインのほうは今、目の当たりにして驚いたんだろう。
「俺たちからしてみれば、喋って聞き取る式神のほうが驚きだったがな」
「……なるほど。これはなかなかに興味深い」
しきりに感心している姿に、徳丸が思わず苦笑したとき、中央から強い風が吹き抜けた。
鈴の音と巫女の唱和が薄っすらと聞こえた気がする。
それはケインも同じだったようで、警戒をあらわにして周辺を見渡している。
「これがサムの言っていた術ならば、もう一度、強風が吹いたあとに術が使えなくなるはずだ」
「ここからは戦闘になっても迂闊に負傷できないということだな」
「それが通り次第、俺はサムを迎えに行ってくる。戻ったらすぐに中央へ向かえるよう準備を頼む」
ケインがうなずくよりも早く、海から中央へ向かって強い風が吹き抜けていった。
戦艦が大きく揺れて兵たちがざわめく。それを静めるのをケインに任せ、徳丸は丘へ走った。
サムの部下たちが腰をおろして取り囲んでいる真ん中で、横たわっているサムは意識がないようだ。
「様子はどうだ?」
「疲労だと思われるのですが……試してはみたのですが、やはり術が使えず回復できません」
「そうか。まあ、仕方ねぇだろう。手間をかけるが背負わせてくれ。俺が車へ運ぼう。あんたたちはこのあとの指示を受けているのか?」
「はい。私とダニエルはここで後処理の手伝いを。ルイとエリックは上将が中央へ連れていくとおっしゃっていました」
「わかった。当分のあいだ術が使えねえようだが、手に余ることがあればうちの隊員に言ってくれりゃあ大概は対応できるはずだ」
クリストフがうなずいたのを確認して丘をおりた。
下では既にケインが車の準備を済ませて待っている。
早足で車に向かいながら、徳丸は西浜のことを考えた。梁瀬の疲労はもとより、修治や鴇汰はどうしているか。
麻乃との対峙をなんとかしのぎ、この術で局面が変わることを祈るばかりだ。
「待たせてすまない」
「中央部へ向かう部隊は揃った。しかしこの先のルートが我々では不確かだ。先導を頼む」
ケインの言葉にうなずくと背負ったサムを車の後部席に寝かせ、徳丸は運転席に乗り込んだ。
「花岡、さっき岱胡のやつから式神が届いた。どうやら庸儀の兵がルートを逸れて山に入っているらしい」
「山、ですか……なんだってそんなところに……」
「すまないが、こっちが落ち着いら数部隊で様子を見に行ってくれ」
「わかりました。なにかあれば、誰かを直接中央へ向かわせます」
「頼む」
後ろに並ぶジャセンベル軍の車に声をかけると、徳丸は最初からアクセルを踏み込み、スピードを出して車を走らせた。
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