干渉
第73話 干渉 ~マドル 1~
鴇汰を刺したあと、その手を払いのけると中央へ向かった。
走りながら、途中で車あるいは馬を奪おうと思ったけれど、その際に騒ぎになって怪我でも負わされたら面倒だと思い、マドルはそのまま森の中を進んだ。
しばらく進むと、中央の方角から強風が吹き荒れた。
「――くっ! この風は……またなにかの術か!」
鈴の音がとおり過ぎた気がして振り返った。
結界が広がった気配を感じる。
その直後にまた、西の浜からさっきより強い風が吹く。
三度目だ。
三度も確認できない術を使われようとは思いもしなかった。
しかも今度は西側から吹いている。
南側だけでなく、中央や西側にもこれほどの術を扱える術師がいるのか?
(そんなはずがない……しかし……)
三度使われていても、マドル自身は麻乃の中に留まっている。
どうやら暗示を解く術のようだけれど、さすがにこの術までは解けないのだろう。
(であるとすれば、思うほどの術師ではないのか……?)
マドルほどの力が無いのであれば、脅威になるとも思えないけれど、最低でもこれほどの術師が三人いると考えられる。
だから油断はできない。
麻乃の足を速めて走る。
マドルの思った以上に進んでいないことに焦りを感じていた。
やはりどこかで馬なり車なりを調達しなければ。
中央へのルートへ近づくと、木陰から潜んで様子を探った。
ロマジェリカ軍が持ち込んだと思われる馬を、泉翔の戦士たちが引いているのがみえた。
ルートを進むのは難しいとしても、それを奪って森を進めば、走るよりは速い。
麻乃の体で術を使うのは簡単ではなく、自身で使うより効果が出ないのは、最初に麻乃の傷を治したときにわかっている。
それでも、簡単な術であれば通るのも理解していた。
木陰に潜んだまま、金縛りの術を唱える。
(――効いていない?)
泉翔の戦士たちは、なにごともなくそのまま歩みを進めていく。
再度、金縛りを試みても、やはり効いていない。
(術が無効化されているのかもしれない……)
最初に感じた術はきっと暗示を解くもので、残りの二つのどちらかは、術自体を無効化するものだったのかもしれない。
それはどのくらいの時間、効果を示すのか。
まさか解くまでということはないだろう。
泉翔にも術師は多いはずだし、なにより連絡手段が途絶えることになるのだから。
この術師に忌々しさを感じながらも、使えないものはどうにもしようがない。
とにかく今は、中央へ走った。
途中、様子を見るためにルートを覗く。
(あれは……! ジャセンベル軍!)
ロマジェリカ兵を数部隊引き連れて西側の浜へと向かっていくのは、間違いなくジャセンベル兵だ。
いつの間にジャセンベル軍が上陸したのか。
(もしや、長田鴇汰が戻ったのは、ジャセンベルの手を借りてのことか……?)
そうだとしても、その繋がりがわからない。
鴇汰がジャセンベル人であれば、まだ理解できるけれど、やつはロマジェリカの混血だ。
考えあぐねていると、今度は浜のほうから数台の車が中央へ向かって走り去っていった。
それらもジャセンベル兵が乗り込んでいた。
(なにがどうなっている……ジャセンベル軍は今ごろ大陸で統一を図っているのではないのか?)
側近からの連絡も届かないままだ。
まさかとは思うけれど大陸での統一を棄て、我々に便乗して泉翔制圧を目論んでいるのだろうか。
いったん自身の体へ戻り状況を確認したいのに、麻乃の意識が深く沈んでいて、このまま離れると体だけが抜け殻のようになってしまう。
(それに――)
術が無効化されていたら、離れたあとにすぐ戻れない可能性もある。
そうなった場合に、泉翔側に捉えられてしまっては元も子もない。
マドルは周囲に注意を払いながら、できるだけ足を速めて進んだ。
麻乃の体は鍛えられているとはいえ、自分の体とは勝手が違うせいか、やはりどうしても疲労がかさむ。
ルートや周囲を覗き見て何度目かのとき、ようやく繋がれたままになっている馬を数頭みつけた。
恐らく西の浜から中央へ向かう泉翔の戦士たちのために、残していったのだろう。
すばやく一頭に飛び乗ると、森へ駆け込み走り出した。
(これでだいぶ早く中央へたどり着ける)
あのまま走り続けていたら、途中で力尽きるだろうし、もたもたしていては夜を迎えることになってしまう。
空を仰いで太陽の位置を確認した。
恐らく昼を過ぎたころだろう。
そうなると、夕刻には城に到着できる。
城にさえ着けば麻乃の意識がなかろうと、マドル自身へ戻っても問題はないし、動くのはそれからでも遅くはない。
どのみち夜にはどの軍もそう動きはしないはずだ。
もちろん泉翔側もだ。
夜間のうちに休息をとって、朝になってからまずは中央の各所から制圧していけばいい。
神殿や泉のある森の周辺には結界が張られているけれど、それも麻乃の体さえあればなんの妨げにもならないのだから。
馬を急かし走り続けるも、やはり式神の馬とは違いスピードを出し続けられないことにジレンマを感じていた。
足よりは速く、また馬なり車なりを奪えるかわからないから乗り捨てられずにいるだけだ。
どのくらいの時間が過ぎたのか、陽が傾き始めたようで木々にさえぎられた光は届きにくく、森の中は薄暗くなり始めている。
マドルは時折、式神を放とうとしてみるけれど、相変わらず術が使えないままだ。
(まさか夜まで術が使えないのか……)
今は誰の目にも止まらずに走り続けているけれど、さすがに中央ではそうもいかないだろう。
(せめてコウたちと連絡を取ることさえできれば……)
もう森の中は暗く、中央へのルート近づいて周囲の様子を探った。
戦士たちが潜んでいる気配はない。
かなり時間はかかったけれど、もう中央までは数十分だろうあたりまでたどり着いていた。
空は夕暮れの淡い紫に染まり始めている。
(ようやくここまで来たか……早急に城へ向かわなければ)
手綱を握りしめてルートへ飛び降りると、馬の腹を蹴って走り出した。
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