第55話 焦燥 ~巧 1~

 四つ目の拠点を過ぎた。思ったよりも小刻みに拠点が設けられている。

 昨日のうちに上陸をした先陣は、このあたりではまだ完全に対応しきれず、多くの兵を通したと隊員たちが言っていた。


 そのせいか進むほどにヘイト軍と遭遇し、巧たちは思うように中央へ向かうことができないでいた。

 それでも、反同盟派のおかげで戦闘までは至らずに済んでいる。

 戦う意思をなくしたヘイトの兵たちは、反同盟派だけでなく鴇汰や穂高の隊員たちとジャセンベル兵を数人付き添わせ、ハンスのもとへと戻らせた。


「中村!」


 ピーターに呼ばれて車へ戻ると、その腕に鳥の式神がとまっている。


「レイファーさまからです」


「レイファー? なにかあったって言うの?」


「中村か。今、上田と一緒だ。東側を襲撃していた庸儀は抑えた」


「やけに早いじゃあないの。こっちからも一部隊を出しているのよ」


「ああ、つい今しがた行き会った。上田の対応で、これから共に中央へ向かう」


「そう。助かるわ。中央では元蓮華の加賀野さんのところへ行くように、穂高に伝えてちょうだい。良く手順を確認して対応するようにってね」


 隣にいるのか、レイファーが誰かと話しをしている気配を感じる。


「わかった。上田があんたの今の状況を知りたいそうだ」


「こっちも中央へ向かっているところよ。ただ、ヘイトの兵を引き返させながらだから着くまでは時間がかかるわね」


「そうか。こっちも庸儀の兵がまだ入り込んでいて対応しながらだ。とりあえず中央へ到着次第、再度ピーターへ連絡を入れよう」


「わかったわ。穂高を頼むわね」


 式神が飛び去っていくのを、隊員たちが怪訝そうに見つめている。

 話すのが不思議なのだろう。

 巧自身も、クロムのところで過ごしていなければ同じように思っていたはずだ。


 相原と古市を含む鴇汰の隊員たちは、レイファーの名前が出たことで、緊張の面持ちを見せている。

 泉翔において一番剣を交えているのだから、当然の反応だろう。

 今は共に戦うことを選んだからか込み上げる感情を押し殺しているふうに見えた。


「さあ、こっちも先を急ぐわよ」


 隊員たちを促して先へ進んだ。

 このまま行けば、かなりのヘイト軍を引き揚げさせることが可能だろう。

 先行きが見えてくると、ほかのことが気になってくる。

 東区はレイファーが抑えたと言っていたから安心だ。


 南浜は徳丸が岱胡とうまくやってくれているだろうけれど、中央へはどのタイミングで向かうんだろうか。


 それに――。


 西浜だ。

 修治と麻乃がどうなっているのか、巧もやっぱり気になる。

 暗示を解く術が使われたから、梁瀬は無事に鴇汰を送り出したんだろう。


 鴇汰は間に合ったんだろうか?

 すでに対峙していたとして、誰かが怪我を負っているようなことはないだろうか?

 麻乃の七番も修治の四番も、誰も欠けることなくいるだろうか?


 誰かに梁瀬と連絡を取らせたかったけれど、いたずらに梁瀬を消耗させることもできない。

 結局は中央へたどり着き、詳細を知るしか手はないようだ。

 思うように進めないことで焦燥感に駆られるけれど、今はそんな場合ではない。

 苛立つ思いを無理やりに押し込めた。


 スピードを上げてルートを進む先に、またヘイトの集団が確認でき、巧は全員に指示を出すと、車をとめて対応に向かった。

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