第22話 不安 ~穂高 4~
「だからおまえたちは、まず上陸したら浜の敵兵を一掃してくれないか。そのあいだに、俺は先へ進んでジャセンベルが敵じゃあないと伝えてくる」
「それはたやすいことだ。だが、それじゃ困るんだ」
「なにが困るんだよ?」
「おまえに先に行かれては、土地勘のない俺たちは、立ち往生するしかない。それにおまえは……長田のもとへ行くつもりだろう?」
「そりゃあ……そのために西浜を選んだんだし……けど、それがおまえになんの関係が……」
「そこへは、俺も行く」
きっぱりと言いきったレイファーは、横を駆けていく兵を捕まえ、更にスピードを上げるように言い含めた。
なにか焦っているように見える。
土地勘のないジャセンベル兵をそのままにしておくわけにもいかない、というのはわかる。
それについては、修治か麻乃の隊員たちに先導してもらうつもりだ。
さっき、穂高が感じた思いに間違いがなければ、レイファーの気持ちもわかる。
とは言え、レイファーを一緒に連れていくというのは……。
麻乃にたどり着くときは、きっと修治と対峙しているところだ。
梁瀬がうまく動いていれば、鴇汰もその場にいるに違いない。
鴇汰とレイファーを、鉢合わせていいものだろうか?
そんな穂高の思いを察したかのように、レイファーが言った。
「安心しろ。俺から長田に向かっていくような真似はしない。最も長田はどうかわからないがな」
「だから安心できないんじゃあないか」
「とにかく、おまえには俺を案内してもらわなければ困るんだ」
口調は軽いが、レイファーの目は真剣そのものだ。
さっきから、麻乃が絡んだ話しになると、レイファーの顔つきが変わる。
このままでは押し問答になるだけだ。レイファーは絶対に引かない。
「わかった。西浜へ着いたら一緒に行動しよう。残していく兵は、問題なく戦士たちと連携が取れるようにしてくれ」
「当然だ。手を煩わせるような真似はしない。信用しろと言っても難しいだろうが、俺の部下たちはそれに値するとはっきり言える」
堂々とそう言ってのける姿には、なんの迷いも見えない。
迷っていては、国の上に立つものとして失格だろうけれど、こんなにも下の兵たちを信頼できるのは、それだけ人としての関わりも深いだろうことがうかがえる。
ジャセンベルの城で、王の従者が誇らしげにレイファーのことを語っていた意味も、今では良くわかる。
麻乃を気にしているのも、間違いはないようだ。
そうまで思っている感情がなんなのか、一緒にいればハッキリと見えてくるだろう。
この状況であれば、穂高の判断は悪くないはずだ。
巧もきっと、同じように考えたと思う。
あとで文句を言ってくるとしたら、それはきっと鴇汰だけだ。
「上陸後は速やかに敵兵を一掃。その後は浜で待機。おまえの伝達が済み次第、泉翔の戦士たちに従うよう全軍に指示しよう」
「助かるよ。泉翔は戦士の数がかぎられている。ジャセンベルの力を借りられるのは心強い」
レイファーは穂高の横を抜け、船首に向かって歩き出すと、ふと足を止め振り返った。
「上田……もう一度聞いておく。俺とともに行動する以上、島の東側へすぐには向かえないが、それでいいんだな?」
「……いいも悪いも、俺がいないと困るのはおまえのほうだろう? 今はまず、互いにすべきことをしよう」
手すりに寄りかかり、追いやるように手を振ると、レイファーは少し寂しげな笑みを浮かべ、マントを翻して船首へ向かった。
真っ暗だった空が少しずつ色を変え、水平線の辺りは淡い青色に染まり始めている。
泉翔に着くころには夜が明けているだろう。
明るくなれば互いの姿を認識しやすい。
ジャセンベル人とロマジェリカ人を間違えることはない。
レイファーもサムも、大陸の今後を考えての行動だろうけれど、こうやって泉翔のために力を尽くしてくれている思いに報いなければ。
間違っても戦士たちに彼らを傷つけさせてはならない。
(そうと決まれば、泉翔に着くまでのあいだは体を休めておかなきゃな)
船室へ戻ると、いつでも行動に移れるように荷物をまとめ、ベッドに横になって仮眠を取った。
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