第37話 襲来 ~マドル 1~
思うより少しばかり遅れたものの、概ね予定通りに泉翔近海に着いた。
ロマジェリカとヘイトの船と密に連絡を取り、一斉に各浜へと近づく。
狭い海岸を船が一気に押し寄せたせいで波が立ちひどく揺れる。
(本来、到着するはずの朝であれば、潮が引いてもっと広い範囲で下船が可能だったのだけれど……)
雑兵が小舟を次々に下ろし、上陸していく。
船首に立ち、海岸へ視線を巡らせると、泉翔の戦士はいつもと変わらない兵数しか出ていない。
防衛の準備を邪魔したのは、どうやらうまくいったと見える。
砂浜に蟻のごとく広がった庸儀の兵を見て、数に臆したのか泉翔の戦士はきびすを返して退き始めた。
こちらの兵のほうが一足早く、堤防で逃げ遅れた戦士たちと交戦が始まったようだ。
思った以上にたやすくルートに入り込むことができると思った瞬間、銃声が響いて兵たちが倒れふした。銃を使うものが潜んでいるのか。
「マドル!」
その位置を探ろうとしたとき、ジェの呼ぶ声が聞こえた。
いつの間にか兵は全員が下船し、あとはマドルたちだけになっていた。
促されて小舟に乗り込み、海岸へと向かう。
そのあいだにも砂浜では、雑兵が撃たれ、倒れていく。
どうやら左手の小高い丘に泉翔の部隊が潜んでいるらしい。
コウたちの部隊が右側から上陸をしているのは幸いだ。
あの位置からではさすがに銃弾も届かないようで、右側の部隊がルートに消えていくのが確認できた。
海岸に降り立ったジェは逃げた泉翔の戦士を見て士気を上げているものをあおり、更に多くの兵をルートに向かわせている。
そのおかげで銃撃もルート入り口の堤防付近に集中し、物資を抑える部隊は無事に拠点へ向かい、荷下ろしも捗った。
「なんだかんだと言っても、泉翔の戦士なんてたやすいもんじゃない」
気を良くしたジェは、そう言って笑う。
「ですが、あの銃撃……思いの外、兵数を削がれてしまいました」
「フン、大した損害でもないわよ。このあとは上将が上陸してくるんだから」
「確かにもっと手こずると思っていましたが、泉翔の戦士が退いてしまいましたからね」
上陸が昼を大分過ぎてしまったせいで、もう日が暮れ始めている。
コウたちが無事にルートを進んだ以上、マドルがもたついているわけには行かない。
神官や麻乃を通して見てきたおかげで、ある程度の土地勘は持っている。
とは言えこのままジェを伴って夜通し進軍するつもりはない。
どこかで離れて速やかに城へと向かいたいと思う。
泉翔側の攻撃で荷下ろしが遅れたせいか先行させるジェは部隊を三分の二ほど先へ進ませたものの、マドルのそばに居座っている。
「もう一時間もすれば日が落ちて夜になります。夜のうちに積み荷をすべて下ろし、進軍は夜明けと同時に開始したほうが良さそうですね」
「夜明けを待つって言うの? こっちには車があるんだ。一気に突き進んでしまえばいいじゃない」
「ですが途中で泉翔に仕かけられては、地の理がない私たちには不利になります」
ジェは堤防を睨んだまま数分黙り、マドルへ視線を戻した。
「あんたがそう言うなら、それでいいわ」
そう答えると、さっさと積み荷を下ろすようにと、きつい口調で雑兵に指示を出している。
「あとは私が見ていましょう。貴女は明日からのために少しでも休んでください」
体よく遠ざけるためにジェの身を案じる振りをして、一番近い船で休息を取るように勧めた。
姿が見えなくなったところで他の浜へと連絡を入れた。
北側の浜もここと同じ状況で、最初に現れた泉翔の戦士は姿を見せたものの、すぐに退いたそうだ。
今はこの南側に同じく、積み荷を下ろして拠点の制圧とルートを進軍する部隊に分かれて行動していると言った。
こちらと同じならば、荷下ろしが済むころには夜を迎えるだろう。
無理に動いて兵力を落とすより、夜明けを待つように指示を出した。
西側の浜では先頭が入江に近付いたあたりで砲撃を受け、いくつかの船が沖で沈められてしまったと言った。
(そうだ。以前、麻乃を手に入れるために襲撃したときにも砲撃があった……)
麻乃の無事を確認すると、幸い後方の船に乗っていたために難を逃れたと言う。
ホッと溜息がもれた。
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