第186話 迫り来る時 ~岱胡 2~
考えるだけで頭が痛むようだ。
離れた場所にいても、狙いをつけた途端にきっとバレるだろう。
スピードも上がっているはずだから、うっかりすれば自分の身が危ない。
岱胡でさえそう思うのに、ほかの隊員たちではもっと危険度が増す。
テーブルに両肘を付いて溜息をつくと、茂木が上目遣いで探るように視線を向け、額を寄せてきた。
「もしかして、なにか企んでたりします?」
「ん? いや、企んでるっていうんじゃなくてさ、実は……」
二人に修治が予想している麻乃の西浜上陸の件を話してみた。
修治のいうことは最もで、聞かされたときに、岱胡もまったくそのとおりだろうと考えたからだ。
そうは思っても、実際は違うかもしれない。
この南浜に麻乃が上陸してくる可能性も十分にある。
けれどなにも知らせずなんの気構えもないまま、茂木の班を西浜に詰めさせるのはまずいと思った。
「俺のところですか……」
わずかに茂木の表情が曇った。
「八割がた、そうなるだろうなって思う。とは言え大陸にだって武器は十分にあるはずだし、北でも南でもおかしくはないんだけどさ」
「弱りましたね……まぁ、なんの情報もないままでいきなり遭遇するよりは、全然いいですけどね」
「うん、それに向こうでは修治さんのところや七番のやつらのほかにも、このときのための対処法が決められてるって言うから、十分に情報をやり取りして協力していってよ」
「そうですか……七番だと杉山とは比較的親しくしてるので、そこから当たってみることにします」
立ち上がりかけた茂木の前にかばんを置いて広げ、中から銃弾の入った小箱を二箱、取り出して蓋を開けた。
中には大きめの弾が六発入っている。
「これ……本来は使うことがないだろ? 当たれば当然怪我はするし、当たりどころによっては凄く危ないし……だからおまえに一箱、俺と福島で半分ずつ」
一箱を茂木の前に置き、開けたほうから岱胡は三発取り、残りを福島に渡した。
「……麻酔弾、ですか」
「そう。麻乃さんに限っては、こっちのほうが使えるはずだから。うまくすれば被害を出す前に動きを止められる」
「だけど危険がないわけじゃ……」
「だから……だからおまえたち二人だけに渡すんだよ。これだけは別口で使えるように、常に身近に置いておいて。二人の腕前なら、ちゃんと狙えば間違いは起こらないって思ってるから」
躊躇している二人の手に、無理やりに箱を握らせた。
「迷ってる場合じゃない。俺たちにしかできないこともある。二人とも昨日の打ち合わせ出てるんだからわかるだろ? ほかの敵兵を倒すのが優先だけど、万が一にも麻乃さんを目にした場合は迷わずこっちを撃って。できるだけこっちとあの人を対峙させないようにしたいんだよ」
フッと小さな溜息をついて二人は箱をかばんにしまった。
本当は、岱胡自身がやれればいいことなのに、きっとそうなったときに撃つのは茂木だ。
重荷を背負わせるようで嫌だったけれど、ここまで来てしまってはどうしようもない。
「じゃあ、俺たちももう行きます。こっちのこと、手は出せなくなりますけどよろしく頼みます」
「中央で必ず合流しましょう、西も北も、誰一人欠けることなくたどり着きますから」
「うん、そっちも大変だろうけど、しっかりまとめ役、頼むよ」
二人が出ていくのを玄関まで見送った。
外にはもう車の準備がされ、次々に隊員が荷物を運び込んでいる。
その向こうに、大型の車がまとめて入ってきた。
降りてきたのは元蓮華が四人、巧の隊員を引き連れている。
徳丸の隊員は既に南詰所で防衛の準備と、演習場のチェックに出ていた。
これだけの人数が揃うと、さすがに壮観だ。
否応無く緊張感が湧いてくる。
「なにを気圧されているんですか。こっちを任されているのは岱胡隊長なんですから。しっかりしてくださいよ」
岱胡の考えていることが全部漏れ出して伝わっているかのようで、茂木はそう言うと背中を思い切りたたいて笑った。
「わかってるよ~。今回は徳丸さんも巧さんもいないぶん、元蓮華の人たちと一緒に今まで以上にちゃんとするって」
「それじゃあ、また、中央で」
「あぁ。中央で」
幌付きのトラックにそれぞれが乗り込むと、すぐに車が走り出した。
中から隊員たちが手を振るのが見える。
同じように振り返し、門を出て車が見えなくなるまで見送った。
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