第183話 迫り来る時 ~鴇汰 2~
今回にかぎって、修治はどうしてあんなことを言い出したのか。
言いかけて止めた続きも気になってしまう。
これまでは、互いにどうあろうが知ったことじゃない――と思っていたけれど。
(なんだってんだよ。変なやつ……)
運転席から隊の大野が顔を出し、早く乗るように促され、疑問を解消できないままで北浜へ向かった。
途中、東区との別れ道で山道に入ってから、大野にスピードを緩めるように指示をした。
「相原に頼んであるんだけどさ、この道沿いの地形をちゃんと見ておきたいんだよな」
「そう言えば、この道は嫌ってほど通ってますけど、周辺の様子はうろ覚えですね」
助手席の橋本がそう言うと、隣に座っている古市もうなずいて窓の外へ目を向けている。
「だろ? 拠点を置くにしたってさ、ルートから見えちまったらマズイし、もし敵兵が演習場に逃げ込んだりしたらすぐに見つかっちまうだろうしな」
「かと言って離れ過ぎていたんじゃ、いざってときに使えませんよね?」
「そうなんだよな。それに襲撃のポイントをわけるから、潜みやすい場所も数が必要になってくるだろ。それなりに大人数の組みに別れることになるしさ」
「相原なら、しっかり確認したうえでわかりやすいように地図に起こしてくれるとは思いますけど……」
「だけどやっぱり先に自分の目で確認しておきたいじゃんか。あとで時間割くのは勿体ねーし、今なら通るついでになるだろ?」
道沿いは右側の斜面に小振りの細い木々が並び、迫り出した枝葉でうっそうとした影を落としている。
窓を開けて風を受けながら斜面の奥に目を向けた。
見上げる状態になるせいか、同じ森でも左側の平地よりは潜んでいても見つかり難いだろう。
ただ、襲撃する際にワラワラと斜面を飛び降りてきてからじゃ、アクションが起こし難い気もする。
「下からじゃ、どうもピンときませんね。やっぱり上からルートがどう見えるかがわからないと」
橋本が助手席で外を眺めながら呟いた。
「あぁ、けど、こうやってみると上の様子はほとんど見えないのがわかるよな」
「それに仮に上にいることがバレても、敵兵が簡単に登って行けない程度の斜度がありますよ」
確かに斜度があるうえに、斜面の木々は細い枝振りが網のようにはびこっている。
中を通って上に登るには枝を払い落としながらでないと無理だ。
「これじゃ俺たち自身も降りてくるのが厄介になるな。拠点は上でいいとして、資材が必要になる銃や弓のやつらはこっち側で敵兵を足止め、俺たちのように特になにが必要でもない武器は、左側から……そんな感じでどうだ?」
「う~ん……どうですかね? 正直、左側じゃ潜むには厳しいですよ」
「けど右側じゃ、この斜面を降りる手間がかかり過ぎるぜ? もたついてたらこっちが狙い撃ちされちまう」
「それもそうですね……でも、これまでは堤防の内側で戦ったことがありませんから、こんなにかぎられた場所で敵兵を相手にするのは、やっぱりイメージが固め難いです」
古市は溜息交じりで、今来た道を確認するように後ろを眺めている。
不安な思いが伝わってくるようで、そんな古市の姿を横目で見た。
「俺もそれはわかる。掴みづらいんだよな。なにもかもが。俺が提案しといてこんなコトいうのもなんなんだけどな」
「でも、安部隊長も言ってましたけど、敵兵の数によっては砂浜で混戦になったら、やっぱりこっちが不利になるかもしれないですから……それを考えると、今回のやりかたで敵兵をつぶしていくほうが得策だと俺は思います」
大野は言葉を選ぶように、ゆっくりと言った。
「けどな……そのせいで一般の人も関わってきちまっただろ?」
「あれはどうしようもないですよ。今度ばかりはこれまでと状況が違うことは、印が出た時点でみんなわかっているでしょうし……」
バックミラー越しに大野と視線が合った。
昨夜の打ち合わせでも、同じようなことを周囲から言われている。
わかっていても、どうしても抵抗があることに変わりはない。
関わってほしくなかったと今でも思う。
「また……そんな顔をしてもしょうがないじゃないですか。できるかぎり一般の人が関わらなくて済むように、俺たちも隊長が言ったとおり、死にもの狂いで動きますから、今はそれで納得して下さい」
「わかってるよ、おまえら全員、言わなくてもそうしてくれるってコトはちゃんとさ。でもな……」
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