第135話 合流 ~修治 3~
「ヘイトには王族に一人、どうやらその暗示にかかっているものがいます」
あるころから、急に人柄が変わったようで周囲もおかしいと思っていたという。
様子を見ているうちに、ロマジェリカの術のことを知り、早急に調べたところ、痣が見つかったそうだ。
術に気づいたと知られることで、ロマジェリカの出かたが変わるかもしれないと、今は放置しているという。
「まぁ、痣をなくしてしまえばいいことですが、場所によっては命に関わるので、今は解く方法を探しているところです」
「けど、麻乃のやつは術にかかりにくいって、梁瀬さんが言ってたよな? 一体いつ、そんなことが――」
鴇汰のいうとおりではある。
けれど麻乃以外に、もう一人いたじゃないか。
みんな、おかしいと感じていた人物が……。
「――婆さまだな。やりかたはわからないが、婆さまが介入しているはずだ。それ以外、考えられない」
「亡くなった日の朝、その姿が白骨化してたってのも、術にかかってたせいッスかね?」
「それはまたずいぶんと長いこと、操られていたようですね? それほどの期間を使ってまでもやらなければならなかったことがあったんでしょうが……」
やらなければならなかったこと……。
不要なものは始末をして必要なものだけ手に入れるということか。
豊穣の組み合わせと行き先を、それぞれが悪いように組み合わせ、大陸に渡ったところを狙って倒しにきた。
修治たちが欠けることで少なからず、防衛に支障が出ただろう。
本来、それを見越して攻め込んでくるつもりだったに違いない。
麻乃の件にしても、海を渡ってきたところで、泉翔にいるかぎりは連れ出すのはまず無理だ。
それが、このときばかりはこちらから大陸に出向いていく。
あらかじめ渡ってくる先がわかっていれば、あとは待ち伏せていればいいだけの話し……。
もしも本当にシタラを使って暗示をかけているとすれば、捕らえたあと、やりかた次第で楽に覚醒させられただろう。
(暗示にかかって覚醒したとすれば、今は恐らく意識の欠けた状態……利用されているだけなら引き戻せる)
三国同盟の中にいるとして、できるだけ速やかに探し出さなければ。
ほかの誰かが対峙する前に、誰よりも先に麻乃にたどり着かなければならない。
視線を感じて顔をあげると、全員の目が修治に向いていた。
「麻乃の件については俺が責任を持って対処する。うちがロマジェリカに加担することはありえない。それだけはハッキリ言える」
「こちらが手にした情報では、奴らは二週間のうちに動く。そこを衝いて俺たちは大陸を制覇する……さっきも言ったが、簡単にやられるな」
レイファーとサムは互いに身を寄せ、なにかを確認しあってからそう言った。
二週間……となると、泉翔に着くのはその二日後といったところだろうか?
迎え撃つ準備をするには、十分な期間だ、そう思ったとき、鴇汰があわてて割って入った。
「待てよ、二週間だって? 馬鹿言うな! 俺の掴んだ情報じゃ、五日以内だ……それを聞いたのは昨日の時点でだぜ?」
「五日以内? そんな馬鹿な……そんなに早く物資が整うはずがない!」
「準備に手こずっているらしいから、二、三日の遅れは出るだろうが、って話しだ。それを見越しても泉翔に着くのは早ければ一週間後だ」
レイファーとサムはもちろんのこと、修治も驚いた。
一週間しかないとすると、準備はギリギリだろう。
まだ不確かなことも多いうえに、上層や神殿ともすれ違いが生じたままだ。
下手をすれば間に合わない可能性も出てくる。
「鴇汰、そんな情報をどこから手に入れた?」
「俺の叔父貴が、こっちに戻る前に情報収集をしてくれたんだよ。叔父貴はそういうことに関しちゃ、信頼できる。絶対に間違いはない」
「まずいですね……紅き華……あれがどこから上陸してくるのかわかっていれば、兵力はそこに固めたほうがいいのでしょうが、私たちもそこまではつかめていない」
「そうだ……三カ所のうち、麻乃はどっからくるのか……俺の叔父貴もそこまではなにも言ってなかったな」
サムの言葉に鴇汰も考え込み、不安げな顔を見せている。
ロマジェリカに麻乃が加担している、そして泉翔襲撃に加わっている……となれば戻ってくる先は一つだ。
確証はなくても、確信は持てる。
「……西浜だ。あいつは西浜にくる」
「西浜? なんでそんなことが……どうしてそう言いきれるんだよ?」
「わかるんだよ。俺ならそうする。だからだ」
納得のいかないという表情で修治を睨む鴇汰に、きっぱりとそう言いきった。
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